工芸品の外形と調和して魅力を醸しだす文様。作者はその文様に適したさまざまな技法を用いるとともに、技法の特性を生かした文様が表現されることもあります。
文様と技法の関係に着目しながら、館蔵の染織品、陶磁器、漆工品、金工の作品を紹介する展覧会が、根津美術館で開催中です。
根津美術館の庭 報道内覧会の1月7日には雪が残っていました。
展覧会は2章構成で、第1章は「文様から技法を探る」。染飾品に見られる文様を3種類に分類し、それぞれの特徴を紹介していきます。
まずは、基本になる文様を縦横に連続させる「繰り返し文様」。《縹地籠目矢車模様法被》は、籠目文と矢車文による金襴の法被です。矢車文は武道を重んじる精神を示し、籠目文には魔除けの意味があります。
《縹地籠目矢車模様法被》江戸時代 18~19世紀 根津美術館
「散らし文様」は、空間に文様の要素を任意に置いたデザイン。日本では平安時代頃から見られるようになりました。
《茶地立湧雪持松模様縫箔》は、立ち上る蒸気のような立涌文の上に、雪を冠した松をあらわしました。自由な松の配置は、刺繍ならでは。松が雪の重みに耐える姿は、不屈の精神と重ね合わせられました。
《茶地立湧雪持松模様縫箔》桃山~江戸時代 17世紀 根津美術館
「絵画的な文様」では、小袖全体をキャンバスのように使った作品が紹介されます。
《薄浅葱地槍梅鶴亀模様直垂》は、鮮やかな浅葱色に、まっすぐに枝が伸びた梅、鶴、亀をあらわした、舞台用の直垂と袴です。狂言『三番叟』のために調えられたと思われます。
《薄浅葱地槍梅鶴亀模様直垂》江戸時代 19世紀 根津美術館
第2章「技法から文様を探る」は、染織以外の工芸品。技法の核となる「彫る」「貼る・嵌める」「描く」の3グループで紹介されています。
「彫る」のは、木材などを直接彫る方法と、蝋や粘土などで型をつくって溶かした金属で型取る方法があります。彫漆(堆朱)は、何百回と塗り重ねた漆の層を彫って文様を表す技法です。
《雲龍堆朱盆》中国・明時代 万暦17年(1589) 根津美術館
作品本体に別の素材を貼ったり嵌め込んだりする「貼る・嵌める」。
直径5.5センチという小さな鏡に、金の薄板で花唐草模様の輪郭をつくり、その中にもトルコ石や透明の石を嵌め込んでいる《貼金緑松石象嵌花唐草文鏡》は、盛唐期を中心に発達した宝飾鏡と考えられています。
《貼金緑松石象嵌花唐草文鏡》中国・唐時代 8世紀 根津美術館(村上英二氏寄贈)
筆で作品に直接描画する「描く」。《色絵荒磯文鉢》は、見込み中央に鯉を染付で描き、周囲には花唐草文を丁寧に描写しています。
このような中国風の題材を描いた古伊万里は「型物」と呼ばれ、元禄時代以降に富裕層の間で珍重されました。
《色絵荒磯文鉢》肥前 江戸時代 18世紀 根津美術館(山本正之氏寄贈)
根津美術館で染織品を主要なテーマにした展覧会が開催されるのは、2010年の「能面の心・装束の華」以来。
新年に相応しい華やかな会場をお楽しみください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2022年1月7日 ]