99歳となった今でも、毎日創作活動を描き続けているアーティストの柚木沙弥郎。柚木が手掛けた絵本や染色作品を紹介する展覧会が、PLAY! MUSEUMで開催中です。
会場入口
1922年生まれの柚木は戦後、岡山県の大原美術館に就職します。そこで出会った柳宗悦や芹沢銈介に感銘を受け、25歳の時に染色家としての道に進みました。“布を染める”ことを通して新しい表現の可能性を挑戦し、絵画や立体造形、デザインだけでなく絵本にも活動の幅を広げていきます。
《あ、うん》 制作年不詳 岩立フォークテキスタイルミュージアム蔵
初めて絵本を出したのは1994年、柚木が72歳の時でした。 型染による力強さと物語の世界観が評価された《魔法のことば》は、子どもの宇宙国際図書賞を受賞。以来、現在まで様々な絵本を手掛けています。
「絵のみち」会場
谷川俊太郎との《そしたら、そしたら》や、ジャズ・ピアニストの山下洋輔との《つきよのおんがくたい》も出版。 子どもや読み聞かせをする親が繰り返し手に取ってもらえる、暮らしの中で子どもたちの心に寄り添ってくれる絵本をを生み出します。
《そしたら、そしたら》 原画 木城えほんの郷蔵
《つきよのおんがくたい》 山下洋輔・文 柚木沙弥郎・絵 福音館書店
宮沢賢治自身の自身の心情を綴ったと言われている《アメニモマケズ》では、気持ちや感覚をに直接うったえることを思案します。丸や三角の幾何学的な形をアクセントに、光を含むような明るい色彩で、目に見えない心を伝えるために抽象的な表現で絵本を制作しました。
《雨ニモマケズ》 複製画(ジークレー) ミキハウス蔵
会場には、日本民藝館や岩手にある出版社・光原社などで開催された展覧会のポスターも展示。文字と絵柄を組み合わせた和紙に型染で刷ったポスターには、柚木の技術とセンスが光っています。
《型染ポスター》作家蔵
渦巻き状になった会場の中に入ると現れるのは、染色作品を紹介した「布の森」。 柚木は、日本の伝統的な染色技法の1つである“型染”という技法を使い着物や洋服、暖簾、カーテンなど様々な布を染めてきました。多種多様な作品には、ユーモア溢れる愛らしい人や動物だけでなく、幾何学的な形やまゆ玉や縞の絵柄があります。
「布の森」会場
どんな作品にも鉛筆でスケッチをし、ドローイングを重ねて制作する柚木。染料の指示ノートには、色の出方や染料の量まで細かく記載がされています。 6mにも及ぶ布地には、紺色で染めたシンプルなものから、柚木が好きな色の組み合わせだと言う赤と緑、黄、紫の4色を使ったものも。“布の森”を歩き回りながら、光によって変わる表と裏の様子を楽しむこともできます。
「布の森」会場
2012年から約10年間の制作の様子や日常を撮影した写真のスライド動画には、柚木のあたたかな人柄を感じられます。
染色作品を原寸大に再現されたページや“1日1枚は絵を描くようにしている”“今、ものづくりをしている人たちとの仕事が楽しい”などのメッセージが載った展覧会図録も必見です。
[ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 2021年11月19日 ]