19世紀末から20世紀にかけて、ジュエリー作家、ガラス作家として独自の道を切り拓いたルネ・ラリック。様々な作品を手がけたラリックのインスピレーションに注目した展覧会が、東京都庭園美術館で開催中です。
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東京都庭園美術館 正面玄関ガラス・レリーフ扉
1933年にアール・デコ様式に建てられた朝香宮邸(現・東京都庭園美術館本館)。邸内にはラリック作品が飾られていることもあり、ラリックを紹介する展覧会はこれまでも多く開催されてきました。
今回の展覧会では、7つの章に分けてジュエリーやガラス、デザイン画などラリックの作品を紹介していきます。
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イヴァン=レオン・ブランショ《戯れる子供たち》 / ルネ・ラリックの花瓶《フォルモーズ》1924年 東京都庭園美術館蔵
「ルネ・ラリックのジュエリー」を紹介するのは、小客室と大客室。それまで使われていなかった象牙やオパールなどの素材を用いるなど、革新的だったラリックのジュエリー。1890年頃には、ガラスを本格的に取り入れるようになります。
さらに、植物や昆虫、女性をモチーフにし、誰も見たことのない新しい形のジュエリーをつくっていきました。
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(左から)ペンダント《オパールとスイートピーのペンダント》1900年頃、個人蔵、協力:アルビオンアート・ジュエリー・インスティテュート / ネックレス《葉飾り》1910年頃、個人蔵、協力:アルビオンアート・ジュエリー・インスティテュート
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ペンダント / ブローチ《サランボーあるいはサロメ》1904-1905年頃、個人蔵、協力:アルビオンアート・ジュエリー・インスティテュート
実はラリックは一度も来日をしたことがなく、旧朝香宮邸の設計はフランスのチームと宮内省との間で、今でいう“リモート”で行っていました。
しかし、その後も《ニッポン》《トウキョウ》という名前でテーブル・セットをデザインするなど、日本からの影響や、日本に対する思いを、感じることができます。
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テーブルウェア《ニッポン》1930年
2階の4章「古典の再生」、5章「エキゾティシズムとモダニティ」では、異文化からインスピレーションを受けた作品が並んでいます。
当時、大英博物館やルーヴル美術館をはじめとする美術館が各地に誕生。古代ギリシア・ローマやエジプト美術などの古代の至宝が集められ、ラリックの制作にも大きく影響を与えました。
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テーブルセンターピース《火の鳥》1920年 ギャルリーオルフェ
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(左から)花瓶《つむじ風》1926年、北澤美術館蔵 / 花瓶《ニムロード》1926年、個人蔵 / 花瓶《ラガマール》1926年、大村美術館(角館)蔵
6章では、ラリックのキャリアにとって重要なインスピレーションとなった「女性たちのため」の作品を紹介。
ラリックは、社会進出を果たしたモダンな女性たちのためにシガレット・ケースや香水瓶を制作。2番目の妻、アリス・リドルュは、ジュエリーや香水瓶のデザインとしてミューズにもなっています。
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(左から)香水ケース《コティ社の香水》コティ社 ルネ・ラリック製金属プレート付 1911年 / 香水瓶《レフルール》コティ社 1912年 / 香水瓶《シクラメン》コティ社 1909年、北澤美術館蔵
新館・ギャラリー1は、7章「装飾の新しい視点をもとめて」。
19世紀当時、ジュエリーや工芸品は「装飾美術」とされ、芸術の世界では下位に位置づけられていました。ラリックがどのように装飾美術の価値を見いだそうとしていたか、「ユニーク・ピースとしてのシール・ペルデュ」「プロダクトデザイナーとして」「アール・デコ博覧会|時代の象徴」「都市空間と装飾」の4つのキーワードで探ることができます。
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7章「装飾の新しい視点をもとめて」展示風景
窓際に作品が飾られた邸宅をイメージした展示デザインは、建築家・中山英之によるもの。“窓”から日が差し込み、まるで自然光の中で作品を感じられる空間になっています。
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7章「装飾の新しい視点をもとめて」展示風景
7章の展示デザインを行った中山英之は、ポーラ美術館で開催中「モネ-光のなかに」の会場構成も担当。どちらも“光”をポイントとした空間が特徴となり、作品だけでなく時空を超えた感覚を楽しむことができますます。
[ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 / 2021年6月25日 ]