華やかな作品が並ぶ第三部、まずは肉筆浮世絵からご紹介します。襟元に風を送る色っぽい女性像は、重要文化財《更衣美人図》。美人画の第一人者、喜多川歌麿の作品です。双幅の《春秋二美人図》は葛飾北斎、柔和な表現で並んだふたりは、歌川豊春の門人だった歌川豊広による《真崎稲荷参詣図》です。
鳥文斎栄之は、画業の後半は主に肉筆を好んで手掛けた浮世絵師です。作風は気高く、何を描いても実に上品。旗本出身という異色の経歴が関係しているのかもしれません。
肉筆浮世絵も逸品が今回も屏風が多数出展されています。重要文化財の《祇園祭礼図屏風》をはじめ、二条城を左隻中央に配した典型的な構図の《洛中洛外図屏風》、異様な南蛮人に加え動物もユニークな《南蛮屏風》など、見ごたえたっぷりです。
《江戸名所図屏風》は、2015年に重要文化財に指定されたばかり。江戸時代初期に描かれた作品で、この種の屏風としては最初期の作品になります。画面を覆いつくす人々はどの顔も生気にあふれており、賑やかな江戸の姿を今に伝えます。
豪華な屏風が並びます国宝「伴大納言絵巻」はエンディングにあたる下巻です。中巻で描かれた子どもの喧嘩がきっかけになって、伴大納言の疑惑は拡大。噂が人々によって広まり、ついに朝廷まで。伴大納言は逮捕されてしまいます。世論に押されるかたちで権力者が失墜するさまは、何やら現代の世相と似ているようにも思えます。
大納言の家は絶望感につつまれ、涙ながらに見送る人の姿も。伴大納言自身の姿は描かれていませんが、ちらりと見える袖からは寂寥感が漂います。
国宝《伴大納言絵巻》(下巻)大きな展示室では、酒井抱一の作品がずらり。酒井抱一は姫路藩主の弟という名門の家柄ですが、、尾形光琳に私淑し江戸で琳派を再興した絵師。もし抱一がいなければ、日本的な美の象徴とも讃えられる琳派の系譜は断絶していたかもしれません。
銀地を背景にした《紅白梅図屏風》は、まるで現代美術のよう。《風神雷神図屏風》は先行する作品よりユニークさが強調されています。《十二ヵ月花鳥図貼付屏風》も、動植物の描写が実に見事。動画では見えにくいですが、両隻に月と日が対照的にあしらわれていますので、ぜひ会場でお楽しみください。
琳派の大功労者、酒井抱一やまと絵を紹介した第一部、水墨画・文人画にスポットを当てた第二部と、これまでも逸品が続々と展示されてきましたが、風神雷神図をはじめとしたこのラインナップを待っていた方も多いのではないでしょうか。今回も会期は短く、ほぼ1カ月。一般的に、企画展は後半のほうが混雑します。お早目にどうぞ。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2016年6月16日 ]■出光美術館 美の祝典 に関するツイート