織田信長・豊臣秀吉・徳川家康。戦国時代に天下取りに命運をかけた武将たちは、「名物茶器」と同様に「名物刀剣」の蒐集にも意を尽くしました。優秀で名高い刀は家の大切な道具とされ、家の格式を示す証と考えられていたのです。
彼等が集めた刀剣は「足利将軍家御物(ごもつ)」や「太閤御物」と呼ばれ、また各地の大名家や公家などの名家に伝わる由緒の品は「御家名物(おいえめいぶつ)」として後世に伝わりました。江戸時代中期に本阿弥家がまとめた名刀一覧は、後に「享保名物帳」と呼ばれ、これに所載された刀剣は、以後「名物刀剣」としての評価が定着しました。
展示室1本展は、
根津美術館 にとって10年ぶりとなる刀剣の展覧会。名物刀剣を中心に国宝9件、重要文化財22件、重要美術品3件を含む約50件が一堂に展示されました。
刀剣の展示は難しく、最適な角度で適切な照明を当てなければその魅力を充分に伝えることはできません。
根津美術館 では今回の特別展のために、刀剣用の照明器具を独自に開発しました。光ファイバーを通してハロゲンライトを作品に近い位置から当て、光の角度を正確に調整することで、刀身の全体像と美しい刃文を見られるように工夫したとのこと。リニューアル後の
根津美術館 は展示照明の美しさでも高い評価を受けていますが、今回も手に取るように名物を鑑賞することができます。
国宝 刀 金象嵌銘 光忠/光徳(花押)◇独自開発の照明装置で、美しく輝く刀身。名物刀剣の歴史は、武士の歴史でもあります。歴女に代表されるように、若い人の歴史ファンが増えている昨今。歴史好きにとっても本展は見逃せません。
長い太刀を好んだ上杉景勝が持っていた「備州長船兼光」、桶狭間で織田信長が今川義元から召し上げた「義元左文字」、秀吉の妻・おねから徳川秀忠に献上された「三日月宗近」。鋭い輝きの中に、我が国の長い歴史を感じとることができるでしょう。
展示室2東京・青山にある
根津美術館 。東武鉄道の社長などを務めた実業家の初代根津嘉一郎が蒐集した日本・東洋の古美術品コレクションを保存し、展示するために1941年に開館しました。戦災による消失、再建、増築などの後、3年半をかけた大規模な改修工事が行なわれ、2009年10月にリニューアルオープンしました。
大きな屋根が印象的な建物は、サントリー美術館も手がけた隈研吾氏による設計です。国宝7件を含む充実した日本・東洋古美術の所蔵品はもとより、エントランスから館内に至るアプローチ、広大な日本庭園を眺めながら一休みできる「NEZUCAFÉ」など、建物も見どころいっぱい。携帯端末向けのwebアプリを先日リリースするなど、新しいアプローチも積極的に行なっています。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2011年8月26日 ]