70,000㎡の緑豊かな庭園に、約120点の作品が並ぶ
彫刻の森美術館。開放的な屋外で彫刻が楽しめるのはこの施設最大の魅力ですが、一方で、彫刻には野外展示に不向きな作品があるのも事実。そのため
彫刻の森美術館では、室内空間で展示される現代彫刻作家を毎年1人づつ紹介する企画を2010年から進めています。
これまでに加藤泉(2010年)、
山本基(2011年)、大巻伸嗣(2012年)、宇治野宗輝(2013年)の作品を展示。5年目となる今回は保井智貴です。保井は乾漆(かんしつ)や螺鈿(らでん)などの伝統的な工芸技法を用いて、人間像を中心に創作を続けています。
会場1階には、子どもや犬を中心とした小作品穏やかな表情でまっすぐに立つ、保井の人物像。極めて静かな佇まいですが、不思議な存在感が引き立ちます。
現代の早すぎる時間の流れ方に、強い違和感を感じているという保井。人が佇んだ時の静謐な空間から、人と時間・自然との本来あるべき関係を表現しています。
中2階の展示室に1体だけで展示されているのは、ダンサーの東山佳永(とうやまかえ)をモデルにした新作《空から》。「光」がテーマなので、自然光の差し込むこの展示室が使われました。
新作の《空から》保井の人物像は、とてもファッショナブル。煌びやかに光る服は、螺鈿(貝殻の内側の素材を漆地に貼り込む技法)で表現されています。
着彩は色漆(いろうるし)や、日本画で使う岩絵具で表現。漆は日が経つにつれて徐々に白っぽくなる性質があるため、色の調整は困難を伴いますが、時間の経過を感じながら作品を作る事にも価値を見出していると言います。
2階では2004年~2012年までの等身大の人物像を中心に紹介像の前に立つと、じんわり響いてくるような独特の空気感。申し訳ございませんが、ちょっとウェブでは伝わりにくいかもしれません。
「もう少し物事をゆっくり考えてみること。静けさの中にも十分主張はできます」(会場で販売中の「記録集」より)という保井の言葉が心に残ります。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2014年10月27日 ]