白隠は江戸時代中期の禅僧。現在の臨済宗の僧侶の系譜を辿れば必ず行き着くほどの重要な禅僧ですが、一般的な知名度はあまり高くありません。
本展は、画期的な白隠研究書を刊行した禅宗史研究者・芳澤勝弘氏(花園大学教授)と、江戸時代絵画史における白隠の重要性を説く美術史家・山下裕二氏(明治学院大学教授)が共同監修して実現しました。
「観音」現存作品の総数は一万点を超え、山下先生も「日本美術史上最多作家ではないか」という白隠。さまざまな作品を残していますが、中でも達磨の絵は有名です。達磨だけでも300点以上が確認されています。
会場中央には達磨の絵だけを集めたセクションを設置。展覧会のメインビジュアルで使われている赤い衣の《半身達磨》(大分・萬壽寺蔵)も、ここで紹介されています。縦約2メートルの大きな達磨は白隠の代表作としても有名な作品ですが、関東地方では初公開となります。
「達磨」さらに進むと「大燈国師」「布袋」など。関羽の奥にある《渡唐天神》(京都・選佛寺蔵)は、白隠の作品の中で最も大きく、表具を含めると3.5メートルを超える巨幅です。
関羽の奥が《渡唐天神》選佛寺(京都)会場は六角形をモチーフにした構成。「戯画」は六角形の二室に展示されています。
一見すると面白可笑しい絵ですが、実は戯画の絵と賛(作品に書かれた文章)には元になった経典や故事などがあり、読み込むことによって真意を理解することができます。会場には一つ一つの戯画に丁寧な解説が書かれています。
「戯画」最後の「墨蹟」のセクションも豪快です。
書が尊ばれるのは技術ではなく、書き手の人間力だと気づいた白隠は、いったん書いたものの上に、さらに墨を塗り重ねたり、墨点を散らしたり。書き出し部分の文字が大きく、下の方が詰まってしまうのも白隠の書の特徴です。
「墨蹟」セクション水墨画を描いた禅僧といえば、すぐ思い浮かぶのは雪舟です。雪舟の作品は国宝や重要文化財に指定されたものも数多くありますが、白隠はゼロ。山下先生は「この展覧会を期に続々と指定されるはずだ」と笑いながら話していました。もちろん、言うまでもなく文化財指定の有無と書画の魅力は別物。2013年も楽しい展覧会で幕開けです。(取材:2012年12月21日)