絵本作家としてのデビュー作『りんごかもしれない』(2013年)以降、子どもから大人まで大ブームを巻き起こしているヨシタケシンスケ。そのヨシタケシンスケ初の大規模個展『ヨシタケシンスケ展かもしれない』の巡回展が、現在そごう美術館で開催されています。
わが家の子どもたちも図書館でヨシタケシンスケの本を見つけると必ず借りてくるほどの大好きな作家さんです。いつも豊かな発想で私たちを楽しませてくれるヨシタケさんの展覧会、どんな仕掛けがあるか親子でわくわくしながら会場へ向かいました。
展覧会入口
まず出迎えてくれたのは「ほんとうの会場はこっちかもしれない」という看板が立つ段ボールハウス。こちら実は展覧会のメインビジュアルにも登場しているものです。冒頭からヨシタケワールド全開で、この先どんな仕掛けが待っているのか期待に胸がはずみます。
ほんとうの会場はこっちかもしれない
ちなみにヨシタケさんは絵本を出版する前からイラストレーターや造形作家として活躍されていて、今回はその当時の作品の一部も展示されています。やはりどれもユーモアたっぷりの作品で、特に《ておくれ君》は2歳の次男が大爆笑して何度もにらめっこしていました。
《ておくれ君》2000年ごろ
さて当展覧会は、ヨシタケシンスケの絵本の世界に入り込んだような体験展示がいくつも用意されています。どれも体を動かすものなので子どもたちが喜ぶこと請け合いです。
まずは絵本『つまんないつまんない』がモチーフの、つまんない顔で写真をとるパネルです。普通、顔はめパネルは笑顔になるものですが、ここではできるだけつまらない顔をしないといけません。二人ともいい感じでつまらなそうです。
つまんないかおで写真をとろう!パネル
続いて絵本『このあとどうしちゃおう』に出てくる「じごくのトゲトゲイス」です。絵本でしか見たことのなかった本物のトゲトゲイスに子どもたちは大興奮。なぜか嬉しそうに座っていました。子どもたちが割と平気そうでしたので私も座ってみると地獄の苦しみを味わうことになりました。
じごくのトゲトゲイス
同じく『このあとどうしちゃおう』に登場する「てんごくのふかふかみち」です。地獄の苦しみを味わった後ということもあり極上の歩き心地でした。ヨシタケさんの妄想する天国と地獄を是非実際に味わってみてください。
てんごくのふかふかみち
体験型の展示はまだまだあります。そして一番子どもたちのテンションがあがったのが「りんごでうるさいおとなをだまらせよう!」です。うるさいことを言う大人の口めがけてりんごを投げつけます。見事口に入るとおいしさでだまってしまいます。現実の大人も意外とそういうものかもしれません。
りんごでうるさいおとなをだまらせよう!
もちろんヨシタケさんの描いた作品もたくさん展示されています。圧巻なのは壁一面に約2500枚並べられた複製スケッチです。これは愛用の手帳に日々描きためたものだそうで、それぞれそのとき思いついたアイデアがペンで描かれています。
壁一面に並べられた複製スケッチ
おそらくこのスケッチの中から沢山のキャラクターや物語が誕生したことでしょう。ヨシタケさんの発想の源を探ることできる貴重な空間です。
小さな手帳にかわいいイラストが描かれている
この日は、ヨシタケシンスケさんのギャラリートークもあり、展覧会に対する思いなどを語られました。ヨシタケさん曰く、自分が子どものころ展覧会というと「つならない」「早く帰りたい」と思っていたこともあり、今回はとにかく子どもたちが楽しめるものにしたかったそうです。
また、昔は自分が絵本作家になるなんて思ってもいなかったそうで、そういう体験が、なにごとも「かもしれない」と考えるヨシタケさんの原点になっていることを感じました。
ギャラリートークの様子
まだまだ紹介しきれない見どころがたくさんありますが、会場に足を運んでいただいてご自身で色々な発見をしていただくことも当展覧会の醍醐味かもしれません。それぐらい細かなところまでヨシタケさんの遊び心が散りばめられています。
以上、紹介してきましたヨシタケさんの「かもしれない」世界。すぐ答えを出すことが求められがちな世の中ですが、ちょっと立ち止まって他の可能性を考えてみるのも楽しいよというヨシタケさんの温かいメッセージのようにも感じました。子どもたちにとっても未だ見ぬ自分の可能性を考えるきっかけになる、かもしれません。
[ 取材・撮影・文:かとうあつし / 2024年7月24日 ]
©Shinsuke Yoshitake