[前期展示]《木曽海道六拾九次之内 洗馬》ジョルジュ・レスコヴィッチ氏蔵 天保7~8年(1836~37) 横大判錦絵70枚揃のうち
あべのハルカス美術館では、7/6〜9/1まであべのハルカス美術館開館10周年記念の「広重 ―摺(すり)の極(きわみ)―」が開催されています。
国民的知名度と人気を誇る広重の大規模で総合的な展覧会として、初期から晩年までの広重作品約330点を堪能することができます。
「摺の極」と銘打たれた展覧会にふさわしく、摺り・保存状態ともに極上の作品が揃っています。
展覧会は、8章仕立てで、広重の全画業をトータルに眺めることができ、広重作品のすばらしさを再認識できます。
広重 雌伏の時代
「外と内姿八景」4枚揃は、美人画の中に室外の様子を描いたこま絵があリ、室内外の様子が対比されているおもしろい趣向です。絵の中の物語に興味が尽きません。
[前期展示]《外と内姿八景 格子の夜雨・まかきの情らむ》ジョルジュ・レスコヴィッチ氏蔵 文政4~6年(1821~23年) 大判錦絵4枚揃
名所絵開眼
名所絵を描き始めた広重は、独自のスタイルを確立していきます。広重ブルーと呼ばれる美しいブルーを大胆に、時には繊細に用い、人気を博します。
高輪海岸の弧状を背景として、満月時の夕刻に舞い降りる雁を描いた大胆な構図と広重ブルーと暮れなずむ紅の雲。詩情豊かに描かれた作品です。
[前期展示]《東都名所 高輪之明月》ジョルジュ・レスコヴィッチ氏蔵 天保2~3年(1831~32) 横大判錦絵10枚揃
東海道五拾三次は特に爆発的に売れ、広重の名声が確立されました。
[前期展示]《東海道五拾三次之内 蒲原 夜之雪》ジョルジュ・レスコヴィッチ氏蔵 天保4~6年(1833~35年)横大判錦絵55枚揃のうち
雪の絵ばかり続いてしまいますが、祇園社の鳥居の前で雪に降り込められた芸子・舞子が描かれた「祇園社雪中」は、京都の名所を題材に10枚揃の「京都名所」の一枚。色彩の少ない雪景色の中に色鮮やかな着物が映えます。
[前期展示]《京都名所之内 祇園社雪中》ジョルジュ・レスコヴィッチ氏蔵 天保5~6年(1834~35年) 横大判錦絵10枚揃
円熟の名所絵~竪型名所絵
東海道五拾三次に続き、木曽海道六拾九次、本朝名所、江戸近郊八景などのシリーズ物を次々と発表し、広重の魅力がいかんなく発揮されます。広重の名所絵の完成は、木曽海道六拾九次で成し遂げられたといわれています。
[前期展示]《木曽海道六拾九次之内 中津川》ジョルジュ・レスコヴィッチ氏蔵 天保7~8年(1836~37) 横大判錦絵70枚揃のうち
風景画を多作していた広重は、自身の画に新味がなくなり、なんとかせねばと思い悩むようになります。六十余州名所図会のシリーズで縦型の構図に工夫を試み、新境を見出し、最晩年の代表作「名所江戸百景」へと結実していきます。
[前期展示]《六十余州名所図会 阿波 鳴門の風波》中外産業株式会社 原安三郎コレクション 安政2年(1855) 大判錦絵69枚揃のうち
広重の花鳥画・肉筆画
今展覧会では、広重の花鳥画も多く出品されています。広重と言えば名所絵において浮世絵史上最大の絵師であると同時に、花鳥画の分野でも最大の絵師でありました。
「月に秋草」は世界にこの一枚のみ現存している貴重なものです。じっくり堪能したいものです。
[前期展示]《月に秋草》ジョルジュ・レスコヴィッチ氏蔵 天保11年(1840) 団扇絵判錦絵
花鳥画の他、文学作品と融合した「和漢朗詠集」はじめ、源氏物語や浄瑠璃などをモチーフにした作品、絵双六、千社札、絵封筒など多彩な作品を見ることができます。
[前期展示]《和漢朗詠集 雪中山村》個人蔵 天保(1830~44)後期 大判錦絵8枚揃のうち
広重が甲府に招かれて制作した道祖神祭りの大型の幕絵が2点のみ現存していて、前期・後期に1点ずつ展示されます。その大きさに驚きます。広重の作品としては最大の物で、2日ほどで一気に描き上げたそうです。写っている人と比べて、その大きさがわかると思います。
[前期展示]《甲府道祖神祭幕絵(山梨県指定文化財)東都名所 目黒不動之瀧》天保12年(1841) 山梨県立博物館
広重を含め、浮世絵師の肉筆画作品は、後年になるにしたがって多くなります。名が上って依頼が増えるためです。出羽天童藩織田家の依頼を受けて制作した「天童広重」と呼ばれる作品群があります。
京名所を雪月花のテーマで描いたものです。
[前期展示]《京嵯峨渡月橋夜ノ花 京洛雪中往来 京高雄山時雨ノ紅葉》太田記念美術館 嘉永2~4年(1849~51)絹本着色3幅
おわりに
今展覧会では、ジョルジュ・レスコヴィッチ氏のコレクションをはじめ国内外から厳選した約330点が展示されます。
会期を前期(7/6〜8/4)と後期(8/6〜9/1)に分けて、ほぼ総入れ替えされますので、前期後期とも訪れたいです。そして、各地に巡回せず、あべのハルカス美術館だけの展示ですので、広重ファンはお見逃しなく!
[ 取材・撮影・文:atsuko.s / 2024年7月5日 ]