前15世紀から後16世紀のスペイン侵攻まで、独自の文明で栄えたメキシコ。多様な環境と独自の世界観は、多くの美しい造形を生み出しました。
メキシコの文明で「マヤ」「アステカ」「テオティワカン」という代表的な3つに焦点をあて、メキシコ国内の主要博物館から厳選した約140件を紹介する展覧会が、東京国立博物館で始まりました。
東京国立博物館 特別展「古代メキシコ ― マヤ、アステカ、テオティワカン」会場入口
展覧会は4章構成、第1章は「古代メキシコへのいざない」です。
前1500年頃にメキシコ湾岸部に興ったのがオルメカ文明です。トウモロコシなどの栽培植物と野生の動植物が暮らしを支え、後に天体観測に基づく暦が誕生。神々への祈りや畏れから、様々な儀礼が発達しました。
《オルメカ様式の石偶》は、人間とジャガーの特徴が併せて表現されている幼児像です。オルメカ文明を象徴する作品のひとつです。
《オルメカ様式の石偶》オルメカ文明、前1000~前400年 セロ・デ・ラス・メサス出土 メキシコ国立人類学博物館蔵
第2章は「テオティワカン 神々の都」。テオティワカンは、メキシコ中央高原にある都市遺跡です。前1世紀から後6世紀まで栄え、ピラミッドや儀礼の場などが建ち並ぶ、巨大な計画都市を築きました。
200年頃に建造された「太陽のピラミッド」は、アメリカ大陸最大級のピラミッドです。直径1.5mにもなる巨大な《死のディスク石彫》は、地平線に沈んだ夜の太陽を表わすと考えられています。
《死のディスク石彫》テオティワカン文明、300~550年 テオティワカン、太陽のピラミッド、太陽の広場出土 メキシコ国立人類学博物館蔵
「水」「豊穣」「大地」を象徴するとされるのが「月のピラミッド」です。100年頃から増築を繰り返しました。
《耳飾りを着けた女性立像》は、埋葬墓2からの出土品です。これらの副葬品とともに、両手を後ろで縛られた生贄、ピューマやオオカミなどの動物も見つかっています。
《耳飾りを着けた女性立像》テオティワカン文明、200~250年 テオティワカン、月のピラミッド、埋葬墓2出土 テオティワカン考古学ゾーン蔵
「羽毛の蛇ピラミッド」は200年頃建造。「金星」を象徴しています。並んで展示されている《羽毛の蛇神石像》と《シパクトリ神の頭飾り石像》は、ともに王権の象徴です。巨大な石彫で飾られた羽毛の蛇ピラミッドは、メソアメリカで最初の大モニュメントでした。
(左奥から)《シパクトリ神の頭飾り石像》テオティワカン文明、200~250年 テオティワカン、羽毛の蛇ピラミッド出土 テオティワカン考古学ゾーン蔵 / 《羽毛の蛇神石彫》テオティワカン文明、200~250年 テオティワカン、羽毛の蛇ピラミッド出土 テオティワカン考古学ゾーン蔵
第3章は「マヤ 都市国家の興亡」。マヤは、前1200年頃から後16世紀までメソアメリカ一帯で栄えた文明です。後1世紀頃には王朝が成立しました。
《円筒形土器》に外交使節を表した表現が見られるように、都市間では交易や交流が栄えただけでなく、時には戦争を通じて大きなネットワーク社会が形成されました。
《円筒形土器》マヤ文明、600~850年 出土地不明 メキシコ国立人類学博物館
展覧会の目玉といえるのが《赤の女王(レイナ・ロハ)》です。パレンケ13号神殿の中央の墓室で、真っ赤な辰砂(水銀朱)に覆われて埋葬されており、展示室でもドラマチックに演出された空間で紹介されています。
マスクをはじめとする品々を身に着けていた墓の主は、DNA分析の結果、パカル王妃であった可能性が指摘されています。
《赤の女王》マヤ文明、7世紀後半 パレンケ、13号神殿出土 アルベルト・ルス・ルイリエ パレンケ遺跡博物館蔵
熱帯のマヤ低地は、大規模な農地の造成に向かないこともあり、都市と周辺部の境界があいまいでした。マヤ文明の遺跡からは、王や貴族をはじめ当時の様々な役職の人々の姿を写した土偶が見つかっています。
(左から)《貴婦人の土偶》マヤ文明、600~950年 ハイナ出土 メキシコ国立人類学博物館蔵 / 《戦士の土偶》マヤ文明、600~950年 ハイナ出土 メキシコ国立人類学博物館蔵 / 《捕虜かシャーマンの土偶》マヤ文明、600~950年 チアパス州シモホベル出土 メキシコ国立人類学博物館蔵
最後の第4章は「アステカ テノチティトランの大神殿」。アステカは14世紀から16世紀にメキシコ中央部に築かれた文明です。首都テノチティトラン(現メキシコシティ)には、7層の大神殿「テンプロ・マヨール」が建てられていました。
そのテンプロ・マヨールの北側から発見されたのが、等身大の《鷲の戦士像》です。王直属の「鷲の軍団」の戦士、または、戦場で英雄的な死を遂げ鳥に変身した戦士の魂を表わしているといわれます
《鷲の戦士像》アステカ文明、1469~86年 テンプロ・マヨール、鷲の家出土 テンプロ・マヨール博物館蔵
金の装飾品は、アンデスなど南米の諸文明では有名ですが、古代メキシコでは珍しく、あまり例がありません。
ただ、テンプロ・マヨールを中心とする都の「聖域」からは、さまざまな金製品が出土しました。現在も調査が進められており、新たな発見も期待されています。
《テスカトリポカ神とウィツィロポチトリ神の笏形飾り》アステカ文明、1486~1502年 テンプロ・マヨール、埋納石室174出土 テンプロ・マヨール博物館蔵
アンデスやインカなど南米における古代文明の展覧会はしばしば開催されますが、メキシコに焦点をあてた展覧会は、ちょっと珍しい試みです。大きな展示物も多く、迫力ある会場で、知られざる古代メキシコの世界を堪能してください。
展覧会は東京展からスタートし、福岡、大阪へと巡回します。会場と会期はこちらです。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2023年6月15日 ]