京都と奈良が隣接し、木津川に流れる地域は旧国名「山城国」であったことから現在も「南山城(みなみやましろ)」と呼ばれています。この地域は、歴史軸の平城京・長岡京・平安京をつなぐ要所であり、奈良の東大寺・興福寺といった大寺との関りも多く山岳修験の重要地でした。
静かな山間の地に根付いた信仰の寺には数多くの仏像などが大切に守られており、南山城地域の寺宝を一堂に展観できる特別展が奈良国立博物館にて開催の運びとなりました。
奈良公園の一角「奈良国立博物館」は仏教文化を伝える中心基地。入口の文字は聖武天皇筆「雑集」から集字されたもの。
展覧会構成は恭仁京の造営と古代寺院から始まり、発掘調査の出土考古遺品なども出展されています。東大寺の別当を務めた平崇が隠棲するために建てた禅定寺の本尊や関連書など奈良仏教との関りを示します。
重要文化財 十一面観音立像と重要文化財 文殊菩薩騎獅像 いずれも禅定寺 宇治田原町
大きな見所として、南山城地区に点在する仏教寺院にスポットをあて、広く知っていただきたいという願いがありました。寿宝寺の千手観音立像は実際に千手を持つ数少ない像。神童寺の愛染明王坐像は天に向けて矢を放つ姿が珍しい像。いずれも美しくカッコイイと心動かされます!
重要文化財 千手観音立像 寿宝寺 京田辺市
重要文化財 愛染明王坐像 神童寺 木津川市 天に向かって矢を。
また、本展のタイトルにもあるように、浄瑠璃寺に祀られる国宝《九体阿弥陀》の5か年を費やした保存修理が完成し、その1とその8が並んで展示されています。
浄土信仰の高まりから阿弥陀堂の建立が多くみられましたが、浄瑠璃寺は現存する平安期のものとして大変重要なもので、像と光背を離した今回の展示は阿弥陀の後ろ姿も観ることができる貴重な機会となっています。実際に寺で九体が並ぶのは今年の年末頃となるようですが楽しみに待ちたいと思います。
また、浄瑠璃寺三重塔に祀られていた十二神将像は現在東京国立博物館と静嘉堂文庫美術館の2カ所に分蔵となっていますが、実に140年ぶりにそろって鑑賞できる機会となっています。
国宝 阿弥陀如来坐像 その1(右)とその8(左) 浄瑠璃寺 木津川市
都の造営や仏教布教に尽力した人物が関わった寺院が多く、行基や一休、解脱上人貞慶などの功績を示すものも多くみられ、南山城一帯の寺院群にはまだまだ知られざる寺宝の数々を見つけることができます。
重要文化財 普賢菩薩騎象像 岩船寺 木津川市 など展示風景
重要文化財 仏涅槃図 常念寺 木津川市
海住山寺には国宝・五重塔初層内陣扉絵(鎌倉時代)があります。高さ17.7mとやや小ぶりですが、初層内陣扉には彩色豊かな梵天、帝釈天などが描かれ、興福寺・護法善神像や笠置寺・般若台との関連も見受けられます。
重要文化財 四天王立像 海住山寺 木津川市 彩色が豊かに残ります
奈良仏教と南山城の繋がりを示す。国宝 五重塔初層内陣扉絵 海住山寺 木津川市 と重要文化財 護法善神像 興福寺 奈良
仏像のほかにも、絵巻物や涅槃図、古文書など多岐に渡る出展があり、仏教発展にとっての良き役割を果たした南山城が、奈良と京都の仏教クロスロードの聖地であったことに注目すべきことを再認識します。
私の心を動かした像をご紹介します。通常非公開の現光寺の本尊、十一面観音坐像です。贅沢な漆箔が残り、三角のバランスよい座姿は迷いなく人々をまっすぐに見つめていらっしゃるようで美しさに圧倒されました。
座した十一面観音の美しさ。重要文化財 十一面観音坐像 現光寺 木津川市
たくさんの鹿と遭遇しながら奈良公園を進むと、奈良国立博物館に着きます。仏像館とも隣接して仏像好きにはいくら時間があっても見切れない空間です。展覧会の仏像大使(広報大使)監修の限定オリジナルグッズも見逃せません。
展覧会の仏像大使による限定オリジナルグッズは即買い
現地南山城の山手地区には笠置の石仏摩崖仏めぐりや、岩船寺から浄瑠璃寺への当尾ハイキングで石工伊派の石仏を探すなど大変人気のコースがあり、木津川沿い地区には海住山寺や、悲しい伝説を持つ蟹満寺など日本の原風景を眺望できる地域があります。
今回の十分な予備知識を持って次は是非現地へお出かけください。近くには、風味豊かなお茶と美しい茶畑の風景が広がる和束町もあります。実は私もご近所さんなので、ちょっとドライブでお出かけしたことを思い出しながら近鉄奈良駅すぐの「ROKUMEI」でティータイム。夏のメニューで涼んでから奈良の都をあとにしました。
暑さに一息、お茶タイムは近鉄奈良駅すぐの「ROKUMEI」へ
[ 取材・撮影・文:ひろりん / 2023年7月7日 ]
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