名古屋市美術館の35周年記念となる「福田美蘭 美術ってなに?」展がスタートしました。現代美術家の福田美蘭さんの中部地方では初となる大規模個展です。
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展示風景 手前:福田美蘭《緑の巨人》1989年 国立国際美術館蔵
序章では福田さんの自画像作品を中心に、福田さんを紹介するようなラインナップ。1991年インド・ビエンナーレで金賞を受賞した《緑の巨人》、祖父で童画家の林義雄が描いた生き物を涅槃図に構成した《涅槃図》など、彼女のバックグランドも知ることができます。
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福田美蘭《志村ふくみ《聖堂》を着る》2004年 滋賀県立美術館蔵
特に注目してほしいのは《志村ふくみ《聖堂》を着る》と、学芸員の森本陽香さんはいいます。これは、志村ふくみさんの着物を福田さんが着用した自画像のようですが、実は、志村さんの着物を着ているところを想像し描かれています。福田さんの想像力、発想力のバネの強さをこの作品だけでも十分に感じられるのではないでしょうか。
もう1歩踏み込めば、本来は衣服としての着物が、美術品となることで触ることすらできない。美術ってなんだろうと問いかけられるかのよう。序章にもかかわらず、すっかり福田ワンダーランドにはまってしまいましたね。
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2階からの展示室内
彼女の作品には2つの柱があります。その1つは古今東西の名画との向きあい方について考えさせてくれる作品たちです。
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福田美蘭《開ける絵》2000年 作家蔵
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《開ける絵》を開けているところ
まず見た目に驚くのはキャンパスが半分に折れてた《開ける絵》。これは鑑賞者が作品を開き絵画をみることができます。額縁だけでなく、絵の部分にも触れます。表面の触感、パネルの重さ……。今までに味わったことのない美術との会話が生まれます。
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福田美蘭《説教(フランク・ステラによる)》2023年 作家蔵
本展で披露されている新作5点の1つが《説教(フランク・ステラによる)》。彼女のフランク・ステラの作品に対する解釈を、80年代アメリカ滞在時に見たデコレーションケーキと組み合わせたものです。(もとになっている《説教》は常設展で展示されています。)
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展示風景
ここでさらに驚いたのは、この作品の画像と手紙をステラさん自身に送り、返事を待っているということ。そして返信があった場合には、(ステラさんの了承あれば)提示すると計画されています。
昨年練馬区立美術館で開催された「日本の中のマネ―出会い、120年のイメージ―」展においても、マネがサロンにこだわったことをなぞるように自身の作品を日展に出品されていました。作品だけでなく、福田さん自身の行動が、鑑賞者の「展示作品」イメージを超えたところへ広がります。
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福田美蘭《プーチン大統領の肖像》2023年 作家蔵
彼女のもう一つの柱は、時事問題をテーマとした作品です。2022年の《ゼレンスキー大統領》に続き本展ではプーチン大統領の肖像画が新作として発表されています。日々メディアでみるプーチンの表情がモディリアーニ風に描かれていて、一見面白味を感じさせられるも、青いアーモンドアイなどを見ていると不気味で、情報の多さにぼんやりしかけてしまっていた私に改めて現実が突き刺さってきました。
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展示風景 手前は《扇面流図》2007年 作家蔵
福田さんの作品は、目の前の事柄をそのまま受け取るだけでは何も始まらないと教えてくれます。世の中で起こっていることや、昔からあるもの、これからのこと、一旦自分のフィルターに通すことが大切なんだと。
展示会場は静かですが、実はとてつもなくエネルギッシュな風が巻き起こっています。福田美蘭さんの作品になぜこんなに惹かれるのか、それが分かった気がしました。
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福田美蘭《美南見十二候 九月》2021年 千葉市美術館蔵 中世以前の日本絵画にほぼ描かれなかった陰影をつけた作品。鳥居清長《美南見十二候 九月》を基にしている
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名古屋市美美術館外観
[ 取材・撮影・文:カワタユカリ / 2023年9月22日 ]
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