スペイン内戦からピカソの《ゲルニカ》が生まれたように、大きな災害は美術家を刺激し、後世に残る名作が生まれる事もしばしばあります。古いものなら平安時代の《伴大納言絵巻》も、応天門の変という大災害から生まれた作品です。
節目となる周年の記念展で、普遍的なワードをテーマにしてきた森美術館。開館記念は「ハピネス」(幸福)、10周年は「LOVE」(愛) でしたが、15周年の今回は「カタストロフ」(大惨事)です。どんなに発達した社会でも避ける事ができない大惨事に対し、「美術が持つちから」を考察していきす。
展覧会は2章構成で、セクションⅠは「美術が惨事をどのように描いてきたのか」がテーマ。絵画、映像、写真、立体造形など、さまざまな手法で表現された惨事が並びます。
作品の中には、地震や津波などビジュアル化しやすい惨事だけでなく、金融危機や放射能汚染など、目に見えない脅威を題材にしたものも。時間とともに忘れられていく惨事を、それぞれの感性で記録・再現しています。
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セクションⅡは、破壊から生まれる「美術のちから」について。惨事がアーティストを刺激し、作品制作のきっかけになる事は少なくありません。日本でも東日本大震災の後に、多くの美術作品が生まれました。
災害を踏まえた芸術活動は、「生活か、美術(または文化)か」という対立軸で語られる事がしばしばありますが、ようやく落ち着いた雰囲気で議論できる状況になりました。作品の質や意義についても、これから先も検証や評価が進むでしょう。
本展では「プレ・ディスカション・シリーズ」として、展覧会の開催前に5回のトーク・イベントも開催。会場で映像が紹介されているとともに、各回のまとめが森美術館のサイトに掲載されています。長文ですが、見ごたえがありました。
会場の外でも、オノ・ヨーコの作品が展示中です。《戦争は終わる》は、オノ・ヨーコとジョン・レノンが1969年に発表したプロジェクト。ベトナム戦争が激化する中、高々と「WAR IS OVER "IF YOU WANT IT"」と掲げました。50年前のメッセージが全く色褪せていない現実に、愕然とする思いです。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2018年10月5日 ]