主に1960年代のアメリカで展開したミニマル・アート。工業用素材や既製品で、単純な形やその反復から成る作品が制作されました。
続いて現れたコンセプチュアル・アートは、制作物以上にコンセプトやアイデアを重視し、国際的な広がりを見せました。
今日のアートにも大きな影響を与えたこの二つの芸術動向を振り返る展覧会が、兵庫県立美術館で開催中です。
兵庫県立美術館
60年代にミニマル・アートが現れる前にアメリカのアートシーンを席巻していたのが、抽象表現主義。色彩の配置や絵の具の痕跡に見られた作家の個性が、ミニマル・アートでは意識的に排除されました。
カール・アンドレはミニマル・アートの代表的な作家のひとりです。《雲と結晶/鉛、身体、悲嘆、歌》では144個の立方体が、一方では散らばって、一方では12×12に整列して並んでいます。
1章「工業材料と市販製品」カール・アンドレ/ダン・フレイヴィン
骨組みだけの白い直方体が並ぶのは、ソル・ルウィットの作品。《ストラクチャー(正方形として1,2,3,4,5)》というタイトルが示すように、1×1×1の立方体が、2×2×2、3×3×3、4×4×4、5×5×5と、より大きな立方体へと連なっています。
ソル・ルウィットはミニマル・アートの作家ですが、コンセプトの重視も主張しており、コンセプチュアル・アートの立役者の一人ともみなされています。
2章「規則と連続性」ソル・ルウィット/ベルント&ヒラ・ベッヒャー
河原温は、作品を構成する重要な要素として、日付や時間を用いています。《Today》は制作した日付をそのままキャンバスに描き続けた作品。1966年から没する前年まで、3,000点近く制作しています。
《I Got Up》は、自身の起床時間を絵葉書に記して、さまざまな知人に送った作品です。日付や時間を記した作品は、河原の人生の克明な記録でもあります。
4章「数と時間」ハンネ・ダルボーフェン/河原 温
8.7cm幅のストライプの作品を描いたのは、ダニエル・ビュレン。1965年にパリの市場で目にしたストライプ柄の布を作品に取り入れたもので、作家の主観的表現ではない絵画を目指していたビュレンにとって、理想的な素材でした。
作品は壁に立て掛けて展示するように指示されており、周囲の空間と絵画との関係性に意識が向いている事が分かります。
5章「場への介入」ダニエル・ビュレン/リチャード・アートシュワーガー
ブルース・ナウマンは、アメリカの芸術家エド・ルシェのアーティストブック『さまざまな小さな火とミルク』から切り取ったページに火をつけて、その過程を撮影しました。
ルシェのアーティストブックは、火を撮影したもの。それをさらに燃やして、作品にしている事になります。
サンフランシスコで食料雑貨店だった建物をスタジオ兼住居として利用していたナウマンにとって、日常生活と芸術表現が共存するものでした。日常性は、今日のアートでも重要なテーマのひとつになっています。
9章「芸術と日常」ブルース・ナウマン/ギルバート&ジョージ
展覧会は、ドロテ&コンラート・フィッシャー夫妻(ともに故人)のコレクションを中心に紹介する企画です。夫妻は、1967年にドイツ・デュッセルドルフにギャラリーを開き、同時代の国際的な動向をいち早く紹介しました。
各地の芸術祭などで見ることができる現代アートにも、これらの動向は脈々と受け継がれています。現代アートに興味を持ち始めた方は、ぜひ抑えていただきたい展覧会です。千葉・愛知と巡回し、兵庫展が最終会場です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2022年3月25日 ]