1985年にゴッホの自画像に扮するセルフポートレイト写真を制作して以来、「自画像的作品」をテーマにした作品を発表し続けている森村泰昌(1951-)。
アーティゾン美術館が所有する青木繁の《海の幸》に触発されて制作した大作を公開する展覧会が、同美術館で開催中です。
アーティゾン美術館「ジャム・セッション M式「海の幸」 ― 森村泰昌 ワタシガタリの神話」会場入口
昨年開催された「鴻池朋子 ちゅうがえり」に続き、石橋財団コレクションと現代美術家が共演する「ジャム・セッション」の第2弾として開催される本展。
森村ならではの解釈で、青木への熱い思いが新たなる作品シリーズになりました。
展覧会は、序章「『私』を見つめる」から。青木繁の自画像などとともに、早速、青木に扮した森村の作品が登場します。
(左から)青木繁《自画像》1903年 石橋財団アーティゾン美術館蔵 / 森村泰昌《自画像/青春(Aoki)》2016/2021年 作家蔵
続く第1章は「『海の幸』鑑賞」。《海の幸》を中心に「海」「神話」に関する青木繁の作品8点と、森村による独自の作品解釈やコメントも紹介されています。
青木は東京美術学校在学中に白馬会の最高賞を受賞して、華々しくデビュー。《海の幸》は卒業後に白馬会展に出品された作品で、青木にとって初めての大作です。
(左から)青木繁《海の幸》1904年(重要文化財) / 青木繁《わだつみのいろこの宮》1907年(重要文化財) ともに石橋財団アーティゾン美術館蔵
第2章は「『海の幸』研究」。森村は《海の幸》をテーマにした《M式「海の幸」》を制作しましたが、そのプロセスを紹介するのがこの章です。
原作である《海の幸》に描かれた空間を読み解き、新たな世界を創出するため、森村は10点のジオラマを制作しています。
第2章「『海の幸』研究」展示風景
(左から)《M式「海の幸」ジオラマ02》2021年 / 《M式「海の幸」ジオラマ01》2021年
展示ケースにはスケッチやメモ類も。細かな指示で、創作のプロセスを感じることができます。
奥に進むと、作品のため制作されたオリジナルの衣装も展示されています。
森村泰昌 M式「海の幸」のためのスケッチ、メモなど
(左奥から)《衣装 07》 / 《衣装 06》 / 《衣装 05》 / 《衣装 04》 / 《衣装 03》 すべて2021年
コロナ禍という事もあり、森村は近年のチームで制作する方法から原点回帰。今回の作品ではメイク、スタイリング、撮影など、すべて森村ひとりで手がけました。
登場人物は10連作で計85人。途方もない制作に挑む森村の姿は監視カメラで記録され、その映像も公開されています。
森村泰昌《「ワタシ」が「わたし」を監視する》2021年
いよいよ第3章「M式『海の幸』変装曲」に、連作《M式「海の幸」》が登場します。
《海の幸》が制作された明治を起点に、それぞれの時代の文化や歴史を背景にしながら、大正、昭和、そして現代から未来まで続きます。
第3章「M式『海の幸』変装曲」展示風景
森村泰昌《M式「海の幸」第1番:假象の創造》2021年 作家蔵
(左から)森村泰昌《M式「海の幸」第5番:復活の日1》2021年 / 森村泰昌《M式「海の幸」第4番:暗い絵》2021年 ともに作家蔵
最後の第4章は「ワタシガタリの神話」。青木に扮した森村による独白(ワタシガタリ)の映像作品です。
なぜ《海の幸》が神話化されたのか、関西弁で青木に語りかける森村。私たちはどこから来てどこへ行くのか。森村流の解釈でストーリーは進みます。
ちょうど70歳になった森村ですが、創作に対する情熱は溢れるばかり。気迫に満ちた独特の作品世界をお楽しみください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2021年10月1日 ]