ストリートで時代を風刺した作品をゲリラ的に発表し、世界中の注目を集めるバンクシー。アートには詳しくなくても、その名前は知っている人も多いのではないでしょうか。
“映画のセット”のような雰囲気の中でバンクシーの作品を見て回るユニークな展覧会が、寺田倉庫 G1ビルで開催中です。
1990年代にイギリス南西部のブリストルで活動を始めたとされているバンクシー。その作品は世界中のストリートにあり、またすでに現存しないものもあるため、いくつもの作品を鑑賞する事は困難です。
そこで本展では、ストリート・アートの代表作をテレビ局の美術チームが、街並みごとリアルに再現。作品の雰囲気と、その背景を楽しんでもらう企画です。
寺田倉庫 G1ビル「バンクシーって誰?展」展示室
本物の電話ボックスのまわりに、通話中の内容を盗聴している男たちを描いた作品は《Spy Booth》。描かれた場所はイギリスの諜報機関(英国政府通信本部)近くの建物ですが、残念ながら現存していません。
イギリスは、世界最高峰の諜報組織を持つ事でも知られています。
Spy Booth の再現展示
こちらはフェルメールの《真珠の耳飾りの少女》をモチーフにした、イギリス・ブリストルの壁画。真珠の耳飾りの部分が、もともと設置されていた黄色い六角形の警報機で表現されており、イギリスにおけるセキュリティ産業への依存を揶揄していると思われます。近年、少女がマスク姿になった事が話題になりましたが、今はすでに取り外されています。
こちらの作品は現存しており、Google Mapのストリートビューで、マスクがつく前と、マスクがついた後が確認できます。
Girl with a Pierced Eardrum の再現展示
赤に金色の花柄の象は、2006年にロサンゼルスの倉庫で3日間だけ開催されたバンクシーの展覧会「Barely Legal」(かろうじて合法)の再現。実際の展覧会では、周囲の部屋の壁紙にあわせてインド象にペインティングしましたが、動物保護団体から苦情を受け、最終日にペインティングは消されました。
英語の慣用表現“Elephant in the room(部屋に象がいる)”は、「明白な問題について誰も触れようとしない」という意味。貧困などの重要な問題を多くの人が無視している事を揶揄しています。
Barely Legal の再現展示
2013年10月1日、バンクシーは滞在中のニューヨークで野外展覧会「Better Out Than In」を実施。毎日ひとつ、神出鬼没的に街角に描いた作品を公式インスタグラムに投稿しました。
消火栓をハンマーで壊そうとしている少年を描いたこの作品は、このプロジェクトで現在でも完全に残っている唯一のスプレー・アート作品です(Google Mapのストリートビュー)。
Hammer Boy(Better Out Than In)の再現展示
2017年、バンクシーはパレスチナのベツレヘム市内に「The Walled Off Hotel(壁で分断されたホテル)」をオープン。イスラエル政府が築いた高さ8メートルの分離壁の目前に建つ「世界一眺めの悪いホテル」です。
本展では、窓からバンクシーの作品の一部が映像で見られる仕様になっています。このホテルは現在でも存在しています(公式サイト)。
Walled Off Hotel の再現展示
会場でひときわ目立つのが、花束を投げつけようとする男の巨大な作品。高さが5メートル以上あるこの作品は、パレスチナのベツレヘム郊外に描かれたもので、イスラエル軍の武力に対して投石やゴムパチンコで抗議した運動がモチーフになっています。
実際の作品はガソリンスタンドの裏側に描かれています(Google Mapのストリートビュー)。
Flower Thrower の再現展示
右手に初代Macintoshを下げる男は、アップル創業者で大富豪だった故スティーブ・ジョブズ。2015年のシリア難民危機に際して、フランスの難民キャンプに描かれました。
スティーブ・ジョブズの実父はシリア難民。彼を受け入れたおかけで、年間70億ドル税金を払うアップル社が生まれたのです。
The Son of a Migrant from Syria の再現展示
展覧会は、2016年にオーストラリアで開幕し、世界5都市を巡回した「ジ・アート・オブ・バンクシー展」を、オリジナルの切り口でアレンジしたもの。
アミューズメント色が強い美展覧会ですが、肩肘張らずにバンクシーの世界観に触れることができる楽しい企画です。会場は撮影OKです。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2021年8月20日 ]