ルネサンス期のヴェネツィア美術は、2つの工房によって発展しました。特にヤコポ・ベッリーニの工房は、後にティツィアーノをはじめとする優れた画家を輩出しました。
海に囲まれ、湿気の多いヴェネツィアは、当時主流だった壁に漆喰を塗って描くフレスコ画が適さず、カンヴァスに油彩で描かれた作品が多数残っています。
「Ⅰヴェネツィア、もう一つのルネサンス」会場風景美しい女神《フローラ》は、2フロア目で出迎えてくれます。美しい金髪、艶やかな肌の表現など、ティツィアーノの卓越した技術で描き出される女神はため息が出るほど。フローラはローマ神話の花の女神で、右手には花を持っています。その指に小さな指輪が描かれていることから、結婚の寓意画とも言われます。
ティツィアーノ・ヴェチェッリオ《フローラ》1515年頃 フィレンツェ ウフィツィ美術館ベッドに横たわる魅力的な裸婦像は、ローマ神話の《ダナエ》。王侯貴族からの注文で描かれた作品です。ダナエやレダなどのローマ神話は、より美しく官能的な裸婦を描く口実としてルネサンスの画家たちに好まれました。
ティツィアーノはローマで《ダナエ》を制作していた際、ミケランジェロとあっています。アトリエで《ダナエ》を見たミケランジェロは、色彩や様式を大層気に入り褒めますが、デッサンがなっていないと指摘します。素描を重視するフィレンツェと、色彩を重視するヴェネツィアの違いがよくわかるエピソードです。
ティツィアーノ・ヴェチェッリオ《ダナエ》1544-46年頃 ナポリ カポディモンテ美術館、ヤコポ・ティントレット《レダと白鳥》1551-55年頃 フィレンツェ ウフィツィ美術館ティツィアーノは70年近い画業の中で、次々と様式を変化させていきます。この展覧会では初期作品から晩年に近い作品まで、その変化を楽しめるのも1つのポイント。《マグダラのマリア》では美しい女性の髪の表現はそのままに、陰影を強調した作風に変化していることが分かります。
長い画業で多くの弟子を育てたティツィアーノ。ティントレットやヴェロネーゼなどがヴェネツィア派の伝統を受け継ぎながら、それぞれの個性を発揮します。
ティツィアーノ・ヴェチェッリオ《マグダラのマリア》1567年 ナポリ カポディモンテ美術館、ティツィアーノと工房《洗礼者聖ヨハネの首を持つサロメ》1560-70年頃 国立西洋美術館ルーベンスやルノワールなど、後年の画家にも多大な影響を与えたティツィアーノ。ヴェネツィア芸術の代表といえる存在で、現在でも愛され続けています。
展覧会はイタリア国内屈指の美術館から多くの作品が来日。東京展のみの開催です。
[ 取材・撮影・文:川田千沙 / 2017年1月20日 ]■ティツィアーノとヴェネツィア派展 に関するツイート