外貨獲得の手段として重用された明治の工芸品。欧米のミュージアムに所蔵されているのは当然ですが、台湾にこれほどまとまった明治工芸コレクションがあるとは、近年まであまり知られていませんでした。
コレクターは、漢方の薬剤師でもある宋培安氏。当初は中国の工芸品を集めていましたが、バリエーション豊かな日本の工芸品に惹かれるようになり、次々にコレクションが増えていきました。
東京藝術大学大学美術館の、地下のふたつの展示室が今回の会場。伸ばすと約3メートルにもなる世界最大の龍の自在置物からはじまり、さまざまな工芸品が並びます。
会場まずは自在置物からご紹介しましょう。太平の世で武具の需要がなくなった事から甲冑師が作り始め、徐々に洗練されていきました。
展示されている自在置物は、大小の龍をはじめ海老、鯱、蛇、鷹、鯉など。カマキリ、トンボ、バッタなどはほぼ原寸大で、小型の自在置物です。
残念ながら展示品に触る事はできませんが、自由にポーズを変えられる自在置物の特徴は映像で紹介されています。
自在置物ビロードに染物を施したのが「天鵞絨友禅」。明治期に京都の地位が脅かされる中、京都の老舗呉服商「千總」の西村總左衛門が技法を確立しました。
この技法によって、ビロード地に絵画のような表現を施す事が可能になり、屏風やタペストリーなどの室内装飾品が誕生しました。展示されている壁掛けも、細部の表現が見事です。
天鵞絨友禅どの作品も精緻な技術のたまものですが、凄技を実感しやすいのが根付です。手のひらにおさまるほどの大きさですが、猿の毛並まで見事に表現。会場では展示ケースにも気を配っており、目線に近い位置で鑑賞できるようになっています。
ユニークなの作品としてひとつご紹介したいのが、展示室2の奥で紹介されていた《山姥香炉》。内部は空洞になっているため、香をたくと山姥の口から煙が出るとの事です。写真パネルで解説されていましたが、異様な迫力が心に残ります。
根付と《山姥香炉》実は宋氏が明治工芸を蒐集したきっかけのひとつが「当事者の日本人がほとんど知らなかったから」。特に戦後、西洋美術のみに注目が集まる一方で、置き去りにされていたのが日本美術でした。海外での高い評価をとても嬉しく思うと同時に、やや寂しさも感じてしまいます。
展覧会は東京から京都、埼玉とまわる巡回展。
会場と会期はこちらをご覧ください。[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2016年9月6日 ] | | 驚きの明治工藝
東京藝術大学大学美術館 (監修), 朝日新聞社 (監修) 美術出版社 ¥ 2,200 |
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