一般的に、美術館といえば展覧会を見に行く場所。ですが、美術館の活動は展覧会だけではありません(保存修復、調査研究など)。また、美術館の活動にはさまざまな営みが伴います(保護、記録、梱包など)。さらに作品には属性があり(オリジナル、来歴など)、その質を担保するための枠組みもあります(美術館、額/枠など)。
本展では、美術館をとりまく様々な事象から、36のキーワードを選んでアルファベット順に構成。いわば「36章立て」といえる展覧会です。
会場構成はトラフ建築設計事務所、グラフィック・デザインは刈谷悠三(neucitora)さんが手がけ、美術館をテーマにした巨大な事典のような展覧会になりました。
会場美術品だけでなく、美術館の活動を示す資料類が一緒に展示されているのも本展の特徴です。
例えば、キーワード「Light 光/照明」には、ルノワール《木かげ》や、モネ《ウォータールー橋、ロンドン》などとともに、単に壁を照らしている照明の光も展示されています(「光を展示」というのはちょっと妙ですが…)。
画面の中に光を取り込んだ印象派の画家に対し、作品を外部から照らす照明の光。作品の中の光と、作品の外の光を、同列で紹介しているわけです。
「Light 光/照明」キーワード「Naked/Nude 裸体/ヌード」には、文字通り裸の絵画が2段掛け、3段掛けで並びます。
ヌードは古代ギリシャから続く理想的な身体で、美の規範。それに対してネイキッド(Naked)はリアルな裸体で、欲望の対象であり、時によっては猥褻物とされる事まであります。
ただ、並んだ美術作品を前にすると、何がヌードで何がネイキッドかは、実に曖昧。そこに線を引く事は出来ない事に気づかされます。
「Naked/Nude 裸体/ヌード」美術館にとって、作品を収蔵する事はとても大切。展示室に出ていない大部分の作品は、通常は収蔵庫で保管されています。
収蔵庫は作品が眠っている場と思われがちですが、展示室に移動したり、他館に貸し出されたりと、収蔵庫の中が変わらない事はありえません。逆に、常に動いていることこそが、収蔵庫の役割でもあります。
会場では4館の収蔵庫をモノクロ原寸大写真で紹介。さらに、実際にその場所で保管されている藤田嗣治の作品を展示しています。
「Storage 収蔵庫」2001年に発足した独立行政法人国立美術館(
東京国立近代美術館、
京都国立近代美術館、
国立西洋美術館、
国立国際美術館、
国立新美術館の5館で構成)は、今年で15年目。2010年に5館が協力した初の展覧会「陰翳礼讃」展が開催されましたが、本展は5年ぶり2度目の5館合同展です。
桝田倫広(
東京国立近代美術館)、新藤淳(
国立西洋美術館)という若手の研究員が企画した本展。事前のリリースでは、正直「?」と思っていましたが、実際に見て回ると意図が明快に響いてくる楽しい企画です。ちょっとシビアな「Money お金」、ユーモラスな「Zero ゼロ」など、36章をじっくりとお楽しみください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2015年6月15日 ]