2009年から4年がかりで解体修理されてきた国宝・鳥獣人物戯画4巻(甲・乙・丙・丁)。今回は修理後初の東京でのお披露目であると同時に、断簡(鳥獣戯画が現在に伝わる過程で、切り分けて掛軸に仕立て直されたもの)5幅も展示。現存する鳥獣戯画すべてが見られる機会は、おそらく初めてです。
国宝の4巻が伝わったのは、京都・高山寺(こうさんじ)。まず展覧会は、高山寺に伝来する寺宝から紹介していきます。
奈良時代に創建されたと伝わる高山寺。学問寺として発展し、多くの美術作品が伝えられました。特に目をひくのは愛らしい動物彫刻。鹿や馬、仔犬は、いずれも鎌倉時代の作です。
第1章「高山寺伝来の至宝」高山寺を中興したのが、明恵(みょうえ)上人。寺域を後鳥羽上皇から賜り、名を高山寺と号したのも明恵です。
自らに厳しい修行を課すとともに、多くの後進を育てた明恵。承久の乱で身寄りを失った女性たちを保護するなど、実践的な宗教活動は多くの人びとに慕われました。
寺外で制作され、高山寺に持ち込まれたと考えられている鳥獣戯画。高山寺を大きく発展させた明恵がいなければ、鳥獣戯画がこの寺に伝わる事もありませんでした。
第2章「高山寺中興の祖 明恵上人」高山寺の国宝絵巻といえば、もちろん鳥獣戯画ですが、実はもう1点。それがこちらの《華厳宗祖師絵伝》(華国縁起:けごんえんぎ)です。
新羅国の華厳宗の祖、義湘(ぎしょう:625~702)と元暁(がんぎょう:618~686)の事蹟を描いたもので、それぞれ義湘絵と元暁絵と呼ばれます。
義湘も元暁も明恵が慕った華厳宗の先学で、男性僧侶の徳とともに世俗女性の信心や救済を説くストーリー。華厳宗祖師絵伝は、新羅の祖師に明恵をなぞらえるように作られたのかもしれません。
国宝《華厳宗祖師絵伝 義湘絵》お待たせしました。いよいよ鳥獣戯画の登場です。
絵巻の前に断簡が5幅。絵巻では見られない動物の描写もありますので、こちらもじっくりとご覧ください。
絵巻の展示は丁巻からはじまり、続いて丙巻、乙巻、そして甲巻と、一般的な順番とは逆の流れで鑑賞していきます。
新たに導入された有機EL照明の効果もあって、各巻は意外に思えるほど美麗。細かな描線もはっきりと見る事ができます。
描線が太く大らかながら、随所に達者な画力が見て取れる丁巻。前半が人物戯画、後半は動物戯画と場面が全く異なる丙巻。動物図鑑のような様相で、擬人化された動物は登場しない乙巻。兎と蛙が相撲をとる場面などで、最も知名度が高い甲巻。
4巻とも前期で前半部分、後期で後半部分が展示されますが、展示されない部分も原寸大のグラフィックが紹介されていますので、全貌を感じていただけると思います。
第3章「国宝・鳥獣戯画」京都での反響をみても、かなりの人気になる事は確実。朝イチよりも閉館間際の方が空く傾向がありますので、
公式サイトで混雑状況を確認の上、お出かけください。
なお、オリジナルグッズもかなり充実しています。年に200本以上展覧会を取材している筆者ですが、今までで一番散財したかもしれません。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫・川田千沙 / 2015年4月27日 ]※会期中に展示替えがあります(断簡も一部は前期のみの展示です)
前期:4月28日(火)~5月17日(日)
後期:5月19日(火)~6月7日(日)
| | 鳥獣戯画の謎
上野 憲示 (監修), 今村 みゑ子 (監修) 宝島社 ¥ 1,080 |