展示構成は下記の通りです。
第1章 本草学・博物学世界の魚類画
第2章 画家 大野麥風の船出
第3章 重ね摺りが生む魚類木版画の光彩『大日本魚類画集』
第4章 清新なる魚類画の高みへ
まずは博物画としての魚類画から。博物画では背景を描かず、そのものだけを描きます。会場には江戸時代から明治、大正までの博物画が展示されており、いくつかには魚の実物写真も。見比べてみると描写の正確さがわかります。
第1章 本草学・博物学世界の魚類画博物画の系譜の一人、杉浦千里の作品にも注目です。2001年に39歳の若さで他界しましたが、2009年の国際甲殻類学会で大変評判になりました。写真を凌駕する緻密さと称えられる描写は圧巻です。
杉浦千里《シマイセエビ》大野麥風は1888年東京生まれ、洋画家として画壇デビューしますが、後に日本画へ転向し、木版画にも取り組みます。
『大日本魚類画集』は1937年に発表された麥風の代表作。今回は全72点が勢ぞろいです。
麥風の描く魚類画は、先に見た博物画とは一線を画します。魚の向きはそれぞれで、身をひねって泳いでいく姿や、上向き、下向きなど大変自由です。麥風は水族館に足を運び、時には潜水艇に乗るなど、魚が泳ぐ姿と、その環境をつぶさに観察し、ありのままに描いています。
全72点に描かれた魚の数は約320匹にものぼります『大日本魚類画集』は、一見すると日本画のようですが、実はすべて木版画。「原色木版二百度手摺り」といわれる鮮やかで緻密な表現は必見です。
会場ではいくつかの作品で原画、摺り見本、版画を展示。摺り見本には原画担当の麥風からの彫師、摺師への細かな指示のあとを見ることが出来ます。
《イサギ》(『大日本魚類画集』より)摺り見本 個人蔵『大日本魚類画集』の版画が一堂に会するフロアを歩くと、まるで水族館の水槽の小窓を覗いているような気分に。麥風の魚への情熱、愛情を感じることができる爽やかな展覧会。東京ステーションギャラリーは東京駅直結です。新幹線に乗る前など、気軽に立ち寄って涼を得てみてはいかがでしょうか。
[ 取材・撮影・文:川田千沙 / 2013年7月26日 ]