抜群の画力をもちながら、あまりにも多様な画風の作品を残したが故に、「これこそ文晁」とよべる代表作をあげることが難しい谷文晁。
文晁自身の画業とともに、広い人脈があった文晁と周辺の人々との交流にも焦点をあてて、幅広く文晁を展観していく本展。四章構成ですが、導入部に序章も設けられています。
序章 様式のカオス
第1章 画業のはじまり
第2章 松平定信と『集古十種』――旅と写生
第3章 文晁と「石山寺縁起絵巻」
第4章 文晁をめぐるネットワーク――蒹葭堂・抱一・南畝・京伝
最初の序章で山水画、人物画、仏画など、多様な画風をまとめて紹介。文晁の幅広い画風は、その貪欲なまでの学習態度が反映され、「八宗兼学(はっしゅうけんがく:もとは仏教用語で、物事を良く学び理解しているという意味)」と呼ばれるほどでした。
展覧会のメインビジュアルである洋画のような花の絵《ファン・ロイエン筆花鳥図模写》も、序章で紹介されています(展示は7月29日まで)。
この絵は八代将軍・徳川吉宗がオランダ商館に発注して描かせた油彩画を、洋風画の名手だった石川大浪(たいろう)・孟高(もうこう)兄弟が模写した作品を、さらに文晁が模写したもの。当時は油彩の道具は日本に無かったため日本画の材料で描かれたものですが、従来の日本画とは全く異なるねっとりとした質感で、原画のイメージを再現しています。
人をくったような作品が《瀑布之図》(展示は7月29日まで)。縦長の画面に、垂直に濃淡の違う5本の線を描き、巨大な「文晁」の落款と、さらに大きな印が配されているのみ。これを「滝」とするのは、さすが谷文晁といったところでしょうか。
展覧会の目玉のひとつが、サントリー美術館本の《石山寺縁起絵巻》。詞書だけが存在し、絵を欠いていた重要文化財の石山寺縁起絵巻<巻六・七>を谷文晁が新たに補作したもので、近年、サントリー美術館の所蔵となりました。1年かけて本格的に修復されていたため、修復後初公開となります。
日本画の展覧会は、作品保護のために会期途中で展示替えが行なわれることが多いですが、本展も7月29日(月)までと7月31日(水)からで大幅に入れ替え。後半にも、文晁とその夫人の横顔のシルエットを墨で塗りつぶして描いた軸(展覧会図録の表紙デザインがコレです)など、あまり見たことが無い作品も出てきますので、こちらも要チェックです。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2013年7月2日 ]