展覧会はサーカスにならって、3「幕」での構成です。
第1幕「悲哀‐旅回りのサーカス 1902-1910年代」
第2幕「喝采‐舞台をひと巡り 1920-30年代」
第3幕「記憶‐光の道化師 1940-50年代」
展覧会ではルオーの作品だけでなく、19世紀末から20世紀初頭のサーカスやキャバレー文化全般を紹介しているのも特徴。第1幕はこの時代に一世を風靡したサーカス場「シルク・フェルナンド」のポスターから始まります。
第1幕「悲哀‐旅回りのサーカス 1902-1910年代」パナソニック 汐留ミュージアムでの展覧会は凝った会場が見もののひとつですが、今回はいつにも増して楽しい構成です。
展示室にはサーカス小屋のような三角屋根の建物が2棟。楽屋をイメージした3つの小部屋も設けられ、中でルオー自身が収集した写真、パンフレットや当時の映像などを紹介し、当時のサーカス文化を振り返ります。
楽屋をイメージした小部屋での展示第2幕では「見世物小屋の呼び込み」「ピエロ」「女曲馬師」「踊り子」など、サーカスの登場人物や場面ごとのテーマで、ルオーがサーカスに託した想いが綴られます。
中には注目の作品も。1931年に描かれた《ライオン》は、なんと世界初公開。また、大きな作品を余り描かなかったルオーとしては例外的な大きさであるタペストリー原画が3点も並んで出展されているのは、ルオー展としてかなり珍しい試みです。
第2幕「喝采‐舞台をひと巡り 1920-30年代」第3幕は晩年の作品。ルオーの作品は後期になるに従い、どんどん厚塗りになっていきます。‘絵の具’というよりも‘色粘土’といった方が近いようなゴツゴツとした塊がキャンバスに付着しています。
描かれている道化師の顔は皆同じで、鼻筋が通った面長の穏やかな表情です。実はこの顔は、この時期にルオーが描いていた宗教画の中のキリストの顔と全く同じ。ルオーの中で、道化師はキリストと同じ聖なる存在として捉えられていたのです。
第3幕「記憶‐光の道化師 1940-50年代」なお本展の図録「ジョルジュ・ルオー サーカス 道化師」は一般書籍として発売中(青幻社 2,381円+税)。当時のパリの社会的・文芸的文脈も紹介しながら、サーカスにまつわるルオーのすべてが解説されています。表紙と裏表紙に綴じ込まれるようにサーカスのポスターが2枚付いているユニークな体裁。充実した図版はもとより、読み物としても楽しい一冊です。(取材:2012年10月5日)