大阪中之島のビジネス街に「中之島香雪美術館」はあります。朝日新聞社の創業者である村山龍平氏が収集した美術品を所蔵し、神戸御影の本館とともに日本の文化を後世に伝える美術館として高名ですが、今回は西洋絵画展?ということでいつもとは異なる気分で訪問しました。
中之島香雪美術館はフェスティバルタワー・ウエストの4階にあります
今回の特別展は大阪府南部にある「和泉市久保惣記念美術館所蔵品展」ということですが、こちらは日本と中国の絵画、書、工芸品など古美術に秀逸なコレクションがあり、北斎や広重、土佐派のやまと絵などの展覧会が楽しみな美術館です。
一方、古地図や西洋絵画の優れた蒐集も見逃せない所蔵品が多くあり、地元に根付く美術館としての高い意義を感じます。その和泉市久保惣記念美術館から珠玉の西洋絵画がやってきているのです。まずはゴヤやミレーの作品からスタートです。作品のキャプションや添えられた似顔絵にも注目です。
フランシスコ・デ・ゴヤ 『闘牛技(ラ・タウロマキア)』より:勇壮なるモーロ人ガスールは規則に従い牡牛を槍で突いた最初の男である 1815-16年制作、1816年出版
次に印象派の時代から、ゴッホ、ルノワール、モネと作品が並びます。農村の風景や生活が表現された身近な題材の作品は当時の人間的営みの一場面が切り取られていて、生命への力強さを感じます。また、日本では特に明るく華やかな絵画に人気が高いように思いますが、都市生活を描写したものや生活のゆとりを感じる作品には幸福感が溢れます。
ドガの「踊り子」は扇面画ですが、踊り子の後ろ姿や群舞のスピード感などドガらしい画風が見てとれます。モネの睡蓮は連作で有名ですが、これは夕刻黄昏前の睡蓮池の様子だそうで、晩年の作画への意欲と模索が滲んでいるような印象です。
エドガー・ドガ 踊り子(扇面画)1879年頃
クロード・モネ 睡蓮 1907年
そしてなんといっても美人さんの人物画には引き付けられます。なじみの色彩と筆使いのルノワールの「花飾りの女」やルオーの「女ピエロ」はお好きでしょうか? ピカソの「座る女」やロートレックの「マルセル・ランデ嬢 胸像」もうまく特徴をとらえている美人です。
ピエール=オーギュスト・ルノワール 花飾りの女
ジョルジュ・ルオー 女ピエロ 1946年頃
エコール・ド・パリの画家として藤田嗣治やモディリアーニ、更にシャガールやマティス作品など、出展数は多くはありませんが、誰もが知る西洋絵画の代表としてのラインナップで十分楽しめます。
マルク・シャガール 家族の団欒
最後に注目するのはロダンです。「永遠の青春」と「考える人」の2点のブロンズ作品があります。艶やかな彫像に肉体の細やかな描写が人間の感情を反映しているように感じられます。「地獄の門」から分離独立することとなった「考える人」は何を想い、何に耽るのでしょう。
会場では国立指定重要文化財の旧村山家住宅に現存する茶室「玄庵」を再現したコーナーに展示されました。茶の湯精神とのコラボレーションは明日への活力が生まれるように“考えることのすすめ”を示唆しているのでしょうか。
オーギュスト・ロダン 永遠の青春 原型1884年
茶室とロダンのコラボレーション オーギュスト・ロダン 考える人 原型1880年
今回は和泉市久保惣記念美術館での広重作品の常設展との相互割引も設定されています。暑い夏が到来しますが、和洋問わずアートを発信する美術館を巡ってみるのはいかがでしょうか?中之島香雪美術館の入るビルにオープンしたCITY BAKERYはビジネス街の人気スポットになっていますので、空いている時間を狙った利用がお勧めです。
今日のお茶会はCITY-BAKERYのレモンパイと共に
作品は全て和泉市久保惣記念美術館所蔵
[ 取材・撮影・文:ひろりん / 2024年6月28日 ]