江戸絵画には多くのスターがいて華やかですが、長沢芦雪は一歩遅れて私たちの知るところとなった絵師ではないでしょうか。しかし一度観れば忘れられないインパクトがある画風に、今視線が集まります。大阪中之島美術館では生誕270年の長沢芦雪にスポットをあて、個人蔵などの初公開11点を含む大規模展覧会がはじまりました。
大阪中之島美術館に長沢芦雪の絵画が大集結
長沢芦雪(1754~1799)は京都伏見の淀藩で育ち「于緝」(うしゅう)の名で絵を描いていましたが、円山応挙のもとで写生画を学び、高弟として京都で活躍することとなります。卓越した腕前と独自の表現力で頭角を表し、その後33歳で紀南での滞在で寺院の襖絵などを手掛け、最後は大阪で亡くなることとなりました。
長沢芦雪 蛇図 個人蔵
紀南では自然とのふれあいが増す中、画風・題材にも変化があり、小さな動物たちに愛情あふれる表現が見え、自由な作風に磨きがかかります。《人物鳥獣画巻》など珍しい画巻の形状の作品もあり、魚や鳥をはじめ猿、蛙、カワウソなど得意とする小動物がほのぼのと描かれています。
長沢芦雪 寒山・拾得・豊千・虎図 島根 西光寺蔵
長沢芦雪 人物鳥獣画巻 展示風景 京都国立博物館蔵
こちらの屏風には舟が並び、下半分は黒。この黒いのは鯨の背中だそうで、捕鯨の町串本ならではの風景ではないでしょうか。
長沢芦雪 絵変わり図屏風 六曲一隻より一部 個人蔵
私は動物たちの“目”に注目してみました。とっても愛らしく、目の描き方ひとつで無限の表現が読み取れるのです。一瞬にして虎や猿が何をしたいのか、何を話しているのか、どんな気持ちなのか考えるととても楽しいのです。
長沢芦雪 朝顔に蛙図襖 田辺市指定文化財 六面うち一部 和歌山 高山寺蔵
今回も出展されている南紀串本の無量寺の《虎図襖》や《龍図襖》は芦雪の代表作となり、香住の大乗寺には応挙の作品と共に芦雪の筆による群猿図が今も私たちを迎えてくれます。無量寺現地では虎と龍の襖は向かい合っているそうですが、今回の展示は横並びとなっていて通常とは違う演出です。虎は両手を揃えて動きそうな迫力があります。しかし、芦雪は虎を見て描いたのではなく、猫をモデルとしたようで、この襖絵の裏側には魚を狙う猫の絵があるそうです。もうひとつ《蹲る虎図》も顔は迫力があるのですが尻尾はだらりと描かれ、こちらも猫がモデルとのこと。瞬時の動きを捉えようとする芦雪の画風をゆっくりと紐解くことも楽しみです。
長沢芦雪 虎図襖 重要文化財 六面うち一部 和歌山 無量寺・串本応挙芦雪館蔵
長沢芦雪 蹲る虎図 個人蔵
同じころ活躍した人気の絵師たちの絵画も並びます。師匠応挙、若冲や蕭白との比較も楽しめます。
伊藤若冲 桃花双鶏図 個人蔵
最後には芦雪の奇想天外なチャレンジ精神の見える作品がありました。一寸角の小さな小さな桝目の中に500人の羅漢さまです! 署名や落款の大きさと比較してみてください。驚異的です。また、《蕗図》には小さな小さな蟻の行列。とことん観察力の鋭さに脱帽します。
長沢芦雪 方寸五百羅漢図 個人蔵
展覧会の図録はピンクの表紙です。ミュージアムグッズにも芦雪らしさが満載です。落款の意味や裏話は町田啓太さんの声の音声ガイドでも聴くことができます。
ミュージアムグッズも多彩
今回は前期後期での入替が多くあります。虎・龍は前期展示、牛・猿は後期展示です。これは2回出かけるしかないな・・と思いつつ、個性的な高層ビル群の谷間にある“珈琲ボア”で一息ついてから中之島をあとにしました。この秋の大阪は虎!!で盛り上がりそうです。
レトロ感あふれる喫茶店
[ 取材・撮影・文:ひろりん / 2023年10月6日 ]
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