現実と非現実的が入り混じった独特の世界観で作品を描き続けている美術家・野又穫(1955-)。東京の美術館で初めてとなる野又の大規模な個展が、東京オペラシティ アートギャラリーではじまりました。
「野又穫 Continuum 想像の語彙」展示風景
野又は東京藝術大学美術学部でデザイン学んだ後、広告代理店に勤務。アートディレクターとして勤務しながら制作に取り組んでいました。1986年に佐賀町エキジビット・スペースで行われた展覧会を皮切りに各地で個展を開き、作家活動に専念します。
(左から)《Nowhere-1 世界の外に立つ世界1》 1993年 東京オペラシティ アートギャラリー蔵 / 《Land-Escape 12 堺景12》 1992年 個人蔵
自身の作品は、日本人より外国人の方が理解しやすいのではないか、と話す野又。2004年に東京オペラシティアートギャラリーでヴォルフガング・ティルマンスと同時開催された個展がきっかけとなり、イギリスのギャラリー、ホワイト・キューブから連絡を受けます。その後、コロナ禍だった2020年にはオンラインでの個展が開催され、ギャラリーの所属となります。
「野又穫 Continuum 想像の語彙」展示風景
幼い頃から木工作業が好きだった野又の作品には、湧いてきたイメージがそのまま投影されています。 メカニカルなモチーフを絵画に持ち込み、パースペクティブのある作品を制作しています。
《Alternative Sights-2》 2010年 個人蔵
モデルとしている風景はないそうですが、キリコやエッシャー、バベルの塔を彷彿とさせる作品が会場には並んでいます。
船の帆や風車、気球といった工業的な建造物は、工場が並ぶ街中で生まれ育った野又にとって、機械や煙突への感情移入がしやすいモチーフだったようです。
「野又穫 Continuum 想像の語彙」展示風景 (中央)《Babel 2005 都市の肖像》 2005年 東京オペラシティアートギャラリー蔵
渋谷の街やピラネージが描いた古代ローマのアッピア街道を思わせる《Listen to the tales 交差点で待つ間に》には、珍しく動物も登場します。描かれているのは、飼い主を待ち続けたハチ公の子孫から見た街の視点です。
(左から)《Bubble Flowers 波の花》 2013年 個人蔵/ 《Listen to the tales 交差点で待つ間に》 2013年 個人蔵
東京オペラシティ アートギャラリーでは、コレクションの寄贈者・寺田小太郎氏が1980年代からはじめた収集により40点あまりの野又作品を収蔵しています。今回の個展は、美術館にとっても待望の開催となりました。
「野又穫 Continuum 想像の語彙」展示風景
会場の最後には、スケッチや模型、資料が展示されています。独特の世界を生み出す野又の制作のヒントが見つかるかもしれません。
「野又穫 Continuum 想像の語彙」展示風景
「昔見たどこかの風景を感じながら、まるで“窓枠”から外をみるように自由に作品に委ねて鑑賞してほしい。年齢に関係なく美術館に訪れて、目から記憶から楽しんでほしい」と語ってた野又。
これまで知る人ぞ知る作家として注目されていましたが、この展覧会を契機に今後の更なる活躍に期待が高まります。
[ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 2023年7月5日 ]