「ルーヴル美術館」の名を冠した展覧会はしばしば開催されますが、今回は肖像がテーマ。対象が極めて広範囲な事が今回はポイントで、ルーヴルの全8部門(古代オリエント美術、古代エジプト美術、古代ギリシャ・エトルリア・ローマ美術、イスラム美術、絵画、彫刻、美術工芸品、素描・版画)から作品が横断的に選ばれて出展されるのは、珍しい試みです。
肖像の役割のひとつが「人の存在を記憶する」。亡くなった人を記憶に残すため、肖像をともなう墓をつくるのは、広い地域で行われました。
ダヴィッドとその工房による《マラーの死》は、暗殺されたフランス革命の指導者を、殉教者のように描いた作品。政治的なプロパガンダとしての意図もあり、本作を含めて多くのレプリカが描かれています。
プロローグ「マスク―肖像の起源」、第1章「記憶のための肖像」肖像芸術と聞いてイメージしやすいのが、権力としての肖像画。写真が無かった時代、権力者は肖像で自らの姿を民に示し、その権勢をアピールしました。
権力者である事を示すために、肖像には決まった表現があります。例えば、紀元前3000年紀末頃の古代メソポタミアの王は、縁がある被り物を被るのがきまりです。
展覧会の見どころが、ナポレオンの肖像が揃ったコーナー。27歳の肖像画、皇帝に即位した際の彫像、さらに51歳で亡くなった時のデスマスクまで、民衆の支持を集めた英雄は、さまざまな姿で表現されています。
第2章「権力の顔」ルネサンス以降のヨーロッパでは、有力な市民が勃興。それまでは王侯貴族や聖職者のものだった肖像も、より広範囲に、より下の階層に広がっていきます。
対象の拡がりによって、表現方法も変化。例えば肖像の衣服は、それまでは権力者である事を示すための約束でしたが、市民階級になると、その人の人柄や個性を示すための要素に変化します。
展覧会のメインビジュアルのひとつであるヴェロネーゼ《女性の肖像》、通称《美しきナーニ》も、優雅なドレスや宝飾品がモデルの個性を引き立てています。ただ、この人が誰なのか、実は分かっていません。
しめくくりは、アルチンボルド。多様な産物を寄せ集めた肖像画は、君主の広大な帝国を寓意的に示しています。
第3章「コードとモード」、エピローグ「アルチンボルド―肖像の遊びと変容」国立新美術館での展示は9月3日までと長めですが、一般的に展覧会は会期末のほうが混雑します。お早目にどうぞ。大阪市立美術館に巡回します(9/22~1/14)。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2018年5月29日 ]