オーストリア生まれのドラッカーが日本美術と出会ったのは、ロンドンで銀行員として働いていた1934年の事。突然の雨嵐に遭ったドラッカーは、雨やどりに入った建物で日本美術の展覧会を見て「恋に落ちてしまった」といいます(ちなみに、本展ではその時にドラッカーが見た展覧会を調べましたが、残念ながら断定には至りませんでした)。
1959年に初来日を果たすと、早速2点の古美術を購入。その後も訪日するたびに、講演などの合間を縫って作品を収集し続けました。
最初に展示されている2点が、初来日で購入した作品。室町時代の扇面画と、江戸時代の濃彩の掛軸です2度目の来日で、古美術商に「室町水墨の山水画の良いものを見たい」と切り出したドラッカー。普通は浮世絵などを求める西洋人が多い中、その渋すぎる趣味に店の主人も驚いたそうです。
幸い、ドラッカーがコレクションに目覚めた60年代は、まだ室町水墨が手に入りやすかった時代。現在のコレクションに残る室町水墨の優品は、この時代に集められたものも少なくありません。
ドラッカーにとって日本美術は「珍しい異文化」ではなく、生活に欠かせないものでした。求めた作品は自宅に飾り、多忙な毎日の中から「正気を取り戻し、世界への視野をただすために日本画を見る」と語っていました。
1章「1960年代、初期の収集」、2章「室町水墨画」山水画について語る事が多かったドラッカーですが、そのコレクションには花や鳥、動物などが描かれた作品も数多くあります。
海北友松《翎毛禽獣図》は、松に小禽、兎、鷹、牛、馬、猿を描いた六幅の掛物(もとは屏風でした)。凛々しく上を見る鷹、顔とポーズがユニークな猿など、手慣れた筆さばきで描いています。
波間で遊ぶような愛らしい兎は、狩野探幽《波に兎》。本展出品作の中ではドラッカーが最後に手に入れた作品で、本展が初めての里帰りとなります。
3章「水墨の花と鳥」ドラッカーが3度目の訪日で出会い、衝撃を受けたのが禅画です。禅画は江戸時代には芸術とはみなされませんでしたが、精神性も含めてドラッカーの心を捉えたようで、風外慧薫、白隠、仙厓と次々に作品を収集しました。
コレクションの3分の1を占めているのが、江戸時代の文人画。ただ、文人画を見るには、その「画家の心」をもって見る事が求められていると感じたドラッカーは、当初は買い求めず、最初の文人画を入手したのは、コレクションをはじめてから10余年後でした。
5章「禅画」、6章「文人画の威力」ドラッカーのコレクションは、これ以外ではあまり作例を見いだせない逸伝の水墨画家たちの作品もあるなど、研究の面でも貴重な存在です。まとまった形で日本で紹介されるのは、約30年ぶり。経営学の巨星が虜になった日本美術をお楽しみください。
なお「歴代館長が選ぶ 所蔵名品展 第2部」も同時開催中。
千葉市美術館が誇る浮世絵の名品などを、ドラッカー展入場の方は無料でお楽しみいただけます。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2015年5月20日 ]