会場は運慶の父・康慶の作品から。平安時代後期の仏師・定朝(生年不詳~1057)の後、仏師の系譜は大きく三派に分かれますが、康慶は奈良仏師の流れです(他の二つは円派と院派)。
仏像の規範だった定朝様(じょうちょうよう)と比して、奈良仏師ははっきりとした彫り口が特徴です。康慶は京都で活躍し、法橋(僧侶に授けられる高位)に。仏師としてのポジションを確立します。
運慶は父の活躍を間近で見ながら修行しました。国宝《大日如来坐像》(奈良・円成寺)は、運慶が20代半ばで造ったとみられる像。ただ、この像は、康慶作の重要文化財《地蔵菩薩坐像》(静岡・瑞林寺)とシルエットが一致するなど、独自のスタイルはあまり見られません。
第1章「運慶を生んだ系譜 ― 康慶から運慶へ」2章では運慶の仏像をほぼ年代順に展示。圧巻の運慶ワールドはここからはじまります。
北条時政が注文した国宝《毘沙門天立像》(静岡・願成就院)から、運慶の像は飛躍的に発展します。大きく腰をひねる姿は、それまでの武将神では見られなかったスタイル。独創性が顕著になっていきます。
国宝《八大童子立像》(和歌山・金剛峯寺)は、運慶が壮年期に手掛けた作品。1点ずつ独立ケースに入っているので、生き生きとした童子像を360度回って鑑賞する事ができます。
2メートル近い像高の《無著菩薩立像》《世親菩薩立像》(奈良・興福寺、ともに国宝)は、圧倒的な存在感。両人は古代インドの高僧で、はるか昔の人物にも関わらず、まるで見て来たかのような迫真の表現こそ、運慶の真骨頂です。
第2章「運慶の彫刻 ― その独創性」3章は運慶の子息である湛慶や康弁による仏像のほか、運慶の様式が強い作例も紹介。そして、運慶作の可能性がある像も展示されています。
繊細な表現が得意だった湛慶による、愛らしい重要文化財《子犬》(京都・高山寺)。康弁は父譲りの迫力で、国宝《龍燈鬼立像》(奈良・興福寺)を手掛けました。
会場最後の重要文化財《十二神将》は、五軀は東京国立博物館、七軀は静嘉堂文庫美術館の所蔵。一堂に会するのは42年ぶりです。像内の墨書から、運慶の子息が慶派仏師が手掛けたと見られています。
第3章「運慶風の展開 ― 運慶の息子と周辺の仏師」今年は春に、
奈良国立博物館で「快慶」展も行われました。仏像の基本を守りつつ美しい像容を追及した快慶に対し、定型を繰り返さずに独創的な像を目指した運慶。仏師としては並び称されるふたりですが、彫刻家としては運慶に軍配が上がります。
巡回はせずに、東京国立博物館だけでの開催。会期途中から出展される作品もありますので、公式サイトでご確認ください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2017年9月25日 ] | | 運慶への招待
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