漆器を中心に据えた展覧会は美術館でもしばしば開催されていますが、歴博で開催される本展は、考古資料や科学分析も含めて、総合的な視点で漆を読み解く企画。全6章による構成です。
第1章は「ウルシと漆」。植物としてのウルシの原産地は中国。塗料として樹液を用いるのは、東アジアから東南アジア特有の文化です。ここに展示されているのが、12,600年前のウルシ材。福井の鳥浜貝塚で発見されたものですが、外来植物のウルシがなぜこんな時期に日本にあるのかは、大きな謎です。
第2章「漆とてわざ」では、布と漆で素地をつくる乾漆、金属板を漆地に嵌め込む平文、そして螺鈿や蒔絵など代表的な漆工技術を紹介。蒔絵師のアトリエも再現されています。
第1章「ウルシと漆」、第2章「漆とてわざ」第3章は「漆とくらし」。漆は什器はもちろん、甲冑などの武具、印籠や櫛などの装身具と、生活のさまざまなシーンに用いられてきました。塗料としてだけでなく、接着剤や蝋の原料としても利用されています。
第4章は「漆のちから」。希少品である漆は古代国家では税として徴収されるなど、政治的な産物でした。漆を用いた豪華な調度品は、中世以降は権力者の象徴としての意味合いも帯びています。
第3章「漆とくらし」、第4章「漆のちから」第2会場に移って、第5章は「漆はうごく」。日本製の漆器は16世紀以降になると世界中に拡散しました。輸出用の漆器は現地の好みにあわせるため、過剰なまでの装飾が目を引きます。琉球漆芸の紹介では、米軍統治下の時代に軍人向けの記念品としてつくられた漆器など、珍しい作例も展示されています。
大きな発展を遂げてきた漆ですが、現代生活において漆文化は危機を迎えています。第6章「現代の漆・これからの漆」では、乾燥性を改質したハイブリッド漆、微粒子化したナノ漆など、最新技術を用いた漆の可能性に言及しています。
第5章「漆はうごく」、第6章「現代の漆・これからの漆」企画展に連動して、第3展示室では特集展示「楽器と漆」も開催中。一節切(ひとよぎり、尺八の一種)、袖笙(携帯できる小振りの笙)、七絃琴(中国製の琴)など漆を用いた楽器が紹介されています。中でも目を引くのが、ずらりと並んだ鼓胴。蒔絵螺鈿でさまざまなデザインが施されており、歴博の所蔵となって以来、初公開となります。
最後に、ややトリビア的な話題を。実は日本語の「うるし」の適切な英訳は定まってなく、翻訳ツールを使うと「lacquer」。いくら何でも人口塗料と同じラッカーでは、漆に失礼でしょう。「oriental lacquer」「Japanese lacquer」「Chinese lacquer」「true lacquer」「Urushi lacquer」など、様々な呼称が乱立しているのが現状です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2017年7月10日 ]■URUSHIふしぎ物語 に関するツイート