2005年には府中市美術館でも個展が開催された山田正亮。没してから6年経ちましたが、ロンドンのアートフェア「Frieze Masters」でも個展が開催されるなど、欧米圏でも注目を集めつつあります。
展覧会は油彩画約200点・紙作品約30点と、個人の作品展としては破格のビッグスケール。会場最後の方は作品が2段掛けになり、壁面を覆い尽くすように作品が並びます。
会場入口は、画面をほぼ1色で塗り込める「Color」シリーズから。色彩は山田正亮の根源でもあり、最晩年に描いたものですが、あえて冒頭で紹介されています。
続いて、初期の静物画「Still Life」シリーズ。セザンヌやモランディを彷彿とさせる作品は、写生に基づいた絵画ではなく「記憶から描いた」といいます。
以後の「Work」シリーズが、山田正亮の核です。1956年から1995年までの作品で、56年~59年がWork B、60~69年がWork C、その後10年がWork Dと、Work Fまで続きました。
しばしばストライプの画家と称される山田正亮。1960年代のWork Cがそれにあたり、1965年頃までに無数のストライプ作品を描いています。
ストライプのパターンは一様ではなく、色も幅もさまざま。遠目には均一な模様のようですが、近寄って見ると筆の跡や絵具の垂れ跡などが目にとまります。幾何学的であるが故に、絵画としての生々しさが強く感じられます。
グリッド状に画面を仕切るスタイルは70年代から。78年の個展で注目を集めてからは、筆のストロークを強調した大画面の作品を描きました。
展覧会の注目のひとつが、56冊の制作ノート。作品のスケッチや課題についてのメモのほか、チラシに出ている「絵画との契約」など、印象的な言葉も記されています。
色彩にこだわった山田正亮。本展では最新型の高演色性LED照明が用いられており、山田が追及した色彩をダイレクトに感じてもらえるよう工夫されています。
会場後半では絵の具や筆のラックなど、制作の裏側も紹介。山田正亮は几帳面な整理魔で、作品を描いている様子を近しい人にも見せませんでしたが、その雰囲気を感じていただけるスペースです。このコーナーのみ、写真撮影が可能です。
実は山田正亮は、1990年頃までの出版物に「東京大学文学部中退」と記載されていました。今でもネット上にその経歴が散見されますが、現在では否定されています。また、作品の制作年代を偽って発表していたと批判された事もありますが、これについては公式図録で「具体性のない噂話レベル」と結論づけられました。
40歳を目前にして、急に光が当たった山田正亮。状況の激変は周囲も巻き込んで、虚実が入り組んだ混乱を生んだのかもしれません。いずれにしても、注目に値する展覧会である事だけは、間違いありません。東京展は2月12日まで、続いて京都国立近代美術館に巡回します。(2017年3月1日~4月9日)
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2016年12月5日 ]■endless 山田正亮の絵画 に関するツイート