豊かな伝統芸能が息づく日本。この国では政権の交代はあっても、革命は無かったとされており、世界でも稀なこの環境が文化的な継承を生み、「伝統芸能の宝庫」を醸成していきました。
芸能の本義は実演であるため、行為が終われば作品も終わり。いつでも見られる美術館の展示とは相反しそうですが、今回は芸能で使われる仮面・楽器・衣裳などや、芸能を描いた美術工芸品などで、伝統芸能の奥深さに触れていただこう、と企画されました。
展示室1紹介されているのは雅楽/能楽/歌舞伎/文楽/演芸/琉球芸能・民俗芸能の6種。会場の都合もあって資料は混在して展示されていますが、キャプションが色別になっているので、何の資料か理解しやすいと思います。
屏風が揃って見ごたえがあるのが、展示室4。雅楽の舞である舞楽を絵画化した《舞楽図屏風》、歌舞伎のルーツである阿国(出雲の女性芸能者)を描いた《阿国歌舞伎図屏風》、中世以来の芸能地である《四条河原遊楽図屏風》などが紹介されています。
展示室4人形浄瑠璃とも称される文楽。江戸時代の初期から続く、伝統的な人形劇です。
文楽の人形は三人で操る「三人遣い」です。主遣い(おもづかい)は首(かしら)と右手、左遣いは左手、足遣いは脚を操作。修行を積むと足、左、主遣いの順に進みますが「足十年、左十年」といわれるほど、長い修練が必要です。
現在使われている人形の首は、ほとんどが四代目大江巳之助(1907-97)によるものです。文楽座にあった首は戦災でことごとく焼失しましたが、四代目大江巳之助は戦後三年間で全種類の首を新調しました。文楽を支えた大功労者といえます。
文楽の展示展示室6には、歌舞伎を描いた浮世絵がずらり。江戸時代のスターである歌舞伎役者を、ブロマイド感覚で世に広めたのが浮世絵です。名だたる浮世絵師による名作・傑作も数多く生まれました。
芝居小屋やの様子や舞台の名場面を描いた作品もありますが、ユニークなのが「楽屋錦絵二編」。舞台以外の役者の姿を描いたもので、現在なら「オフの貴重なプライベート写真」といったところです。
歌舞伎を描いた浮世絵最後の展示室には、豪華な衣装が展示されています。三越(現三越伊勢丹)は衣裳部で貸衣装業を行っていた事があり、人気歌舞伎役者が着用した「由緒衣裳」を数多く所蔵しています。
七匹の個性豊かな鬼面は、兵庫・長田神社の追儺(ついな)式で使われるもの。「おにやらい」とも称され、節分の豆まきのルーツです。
民俗芸能のスケッチは、日本画家の片山春帆が大正~昭和にかけて取材したもの。戦前の琉球芸能の資料が沖縄戦で失われる中、昭和11年の「琉球芸能大会」を描いているのは貴重な記録です。
展示室7幸いな事にこれらの伝統芸能は維持・継承されていますが、前述の琉球芸能のように、一端途切れそうになると、途端に危機に見舞われてしまうのが芸能の宿命。文楽を巡る大阪でのやりとりも記憶に残りますが、伝統芸能において短期的な視点での判断は危険です。
この展覧会も、引き継いできた想いにも意識を向けて、鑑賞していただければと思います。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2016年11月25日 ]■日本の伝統芸能展 に関するツイート