鎌倉時代に日本に入ってきた禅宗。宋・元の美術と喫茶の風習も同時にもたらされ、日本の文化にも大きな影響を与えました。
展覧会は5章構成で、禅宗美術を俯瞰する企画。第一章は「禅宗の成立」です。
宗派としての禅宗を確立したのは菩提達磨。南インド出身という達磨の出自を感じさせる肖像画もあります。左腕を切り落として達磨に弟子入りを懇願した慧可、臨済宗を成立させた臨済義玄などを表した作品が並びます。
第一章「禅宗の成立」続く第二章では、日本における臨済禅の流れが紹介されます。
鎌倉時代から南北朝時代には、日本人僧の中国への留学と、中国からの高僧の招請が頻繁に行われ、日本における禅宗は大きく発展。14世紀末には現在の臨済宗の本山14か寺が全て成立します。江戸時代には新たに中国から臨済宗の流れをくむ黄檗宗も伝わりました。
禅僧の肖像彫刻である頂相彫刻が数多く展示されているこの章。その顔つきは写実的で、中でも《蘭渓道隆座像》は眼光の鋭さが特徴的。秘密は瞳の部分に嵌められた水晶の板です。
第二章「臨済禅の導入と展開」第三章から第2会場、戦国武将と近世の高僧について紹介されます。
禅に身を置いていた北条早雲や武田信玄。後にキリシタン大名になる大友宗麟も、元は禅に帰依していました。禅僧は戦国武将のブレーンとしても活躍。有力な大名の庇護を受ける事で、禅宗寺院も繁栄していきます。
日本臨済宗中興の祖と称されるのが、白隠慧鶴。
2012~13年にかけて、Bunkamura ザ・ミュージアムで開催された大規模な展覧会は記憶に新しいところです。膨大な数の書画を残しているのは、禅の普及に尽力した事に他なりません。
第三章「戦国武将と近世の高僧」最も見ごたえがあるのは、次の第四章。禅宗特有の仏像や仏画が展示されています。
そもそも禅宗は座禅を通した体験を重視するため、他の宗派に比べると礼拝の対称である仏像や仏画は少な目ですが、特徴的な尊像も見ることができます。
円弧状に並べられた《十大弟子立像》は、腰を屈めたり、横を向いたりと珍しいポーズ。中国人仏師が作った《十八羅漢座像》は特に異国風が強く、胸を開くと中から仏の顔が出てきます。
第四章「禅の仏たち」最後は禅宗が育んだ美について。水墨画、詩画軸(しがじく/漢詩文を備えた絵画)、そして喫茶の風習。禅とともに中国からもたらされたさまざまな文化は、日本人の感性を刺激し、独特の発展を見せていきました。
鎌倉時代中頃から権力者の間に広まっていった茶の湯、戦国時代には政治的な意図も強まります。東京国立博物館では来年4月に大規模な「茶の湯」展が開催されますので、予習にもなりそうです。この章には国宝や重要文化財も数多くありますので、さらっと流さないようにご注意ください。
会場一番最後には、座禅の体験コーナーも。実際に単布団(座禅に使う座布団)に座って体験してみてください。
第五章「禅文化の広がり」禅宗美術を総覧する大規模な展覧会ですが、会期はわずか1カ月強です。お早目にどうぞ。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2016年10月17日 ]■禅 心をかたちに に関するツイート