美術館入口の8階は「小川信治 ─ あなた以外の世界のすべて」。「世界とは何か」をテーマに、西洋名画や観光名所など人々の見慣れたイメージを極めて精緻に改変した作品を作っている小川信治さんの、首都圏初の大規模展となります。
展覧会のチラシでは古写真を用いたコラージュ、またはCGと思った方がいるかもしれませんが、実はこれらは鉛筆画。鏡像のような風景が広がる(実は微妙に左右は違います)「対称性/非対称性」、モン・サン・ミッシェルに見える連作「モアレの風景」ともに、あまりにも正確な描写力。小川さん自身も「(他の画材を用いずに)鉛筆だけで表現できる確信を持」っている、と言います。
「小川信治 ─ あなた以外の世界のすべて」会場続いて有名な名画ですが、あれ? 肝心の王女は? これは名画の中心となる人物を抜き去った「Without You」シリーズで、女がいなくなって牛乳だけが注がれていたり、最後の晩餐なのにキリストが独りぼっちだったりと、ユニークな作品が並びます。
1枚の絵を複数に分割したのが「連続体」。本展のために新作も制作されており、千葉市美術館が所蔵する鈴木春信《鞠と男女》も、2枚の絵に分割されてしまいました。
他にも、形が回転することで異なる意味が現れる映像作品や、新作のインスタレーションなど、小川さんの全容を展観。千葉市美術館だけでの開催ですので、お見逃しなく。
「小川信治 ─ あなた以外の世界のすべて」会場一方、7階で開催されているのは「岡崎和郎 Who's Who ─ 見立ての手法」です。
1960年代からオブジェ作家として活躍し、美術評論家の瀧口修造に認められて世に出た岡崎和郎さん。近年は奈義町現代美術館に専用の展示室が設置(1994)、倉敷(1997)や鎌倉(2010)で大規模な個展が開催されるなど、再評価の動きも高まっています。
身の回りにある平凡なものやありふれたイメージを引用して、オブジェを制作している岡崎さん。本展で紹介されている「Who’s Who(人名録)」シリーズは、さまざまな人物(やその作品)から着想を得て制作された一群のオブジェで、岡崎さんのライフワークともいえるシリーズです。
会場にはヨーゼフ・ボイスやマルセル・デュシャンらアーティストだけでなく、チャーチル英元首相やウィリアム・テルまで、古今東西の人物をアルファベット順で紹介。発想の元になった作品と、岡崎さんの作品が並べて展示されています。
「岡崎和郎 Who's Who ─ 見立ての手法」会場例えば、葛飾北斎の冨嶽三十六景と並んでいるのは、絵の一部を塗りつぶした岡崎さんの作品。東日本大震災で襲ってきたのは「黒い波」という証言に基づいて、神奈川沖浪裏を黒く塗りつぶした事がきっかけになり、部分を消すシリーズが生まれました。
展覧会メインビジュアルになっているカラフルなボールは、ピート・モンドリアンの抽象画から。モンドリアンは水平垂直で画面を分割しましたが、岡崎さんは世界を球体に変形。配置によって多様な構図が生まれます。さらに、立方体に置き換えられたり、境界線を除き面だけが床面に並んだりと、別展開の作品もあります。
「岡崎和郎 Who's Who ─ 見立ての手法」会場60年代に活躍した美術家を積極的に紹介してきた千葉市美術館としては、ようやく実現したといえる岡崎和郎展。美術に詳しくない方はややハードルが高く感じるかもしれませんが、元のイメージも並べて紹介されているので、その意図も理解いただけると思います。こちらは千葉展の後に、北九州市立美術館 分館に巡回(11月19日~2017年1月15日)します。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2016年9月20日 ]■小川信治 岡崎和郎 に関するツイート