副題にある「画技」は「絵を描く技術」の事。マンガにおける画技は描写はもちろん、コマの展開や背景の処理など各所に及びます。普段はあまり意識する事が無い、マンガの技術に着目しているのが本展のポイントです。
第1章は「トキワ荘」のマンガ家たち。手塚治虫をはじめ藤子不二雄Ⓐ、赤塚不二夫、石ノ森章太郎、水野英子の、デビュー前後の作品が紹介されます。
マンガの神様・手塚治虫も、初期作は当時の児童マンガの影響が大。あとに続くマンガ家たちは、もちろん手塚からの影響を受けています。
当たり前ではありますが、「マンガを描く」行為は、先人の作品を踏まえて受け継がれているのです。
第2章が本展の中核です。8人のマンガ家をピックアップして、各々の「画技」に迫ります。
紹介されているのは会場の展示順で、さいとう・たかを、竹宮惠子、陸奥A子、諸星大二郎、島本和彦、平野耕太、あずまきよひこ、PEACH-PIT。かなり時代に幅がありますが、それぞれの際立った特徴が解説されています。
例えば、劇画の代名詞といえるさいとう・たかを。劇画の特性である「映画のようなカメラワーク」は、現在のマンガでは一般的な手法ですが、それまでがほぼ正面固定だった事を思うと、画期的な発明といえます。
みどころの解説は、マンガ家の田中圭一氏が担当。「逆側の鼻の影」という革新的描写(竹宮惠子)、日本マンガ独自の「目力表現」の着地点(平野耕太)、あえて「キャラを記号で描く」(あずまきよひこ)など、その着眼点は実にユニークです。じっくり読みたい方は、公式図録(1,800円)をお勧めいたします。
第3章ではマンガを作り出すツールや資料について。マンガの技法書や、Gペンなどの筆記具、描画用のソフトなどが紹介されています。
現在はペンタブレットを使った作画も増えましたが、どんなに技術が進歩しても、マンガを描くのは人の手。手わざを積み重ねて発展してきたマンガ文化は、これからも手わざが引き継いでいくでしょう。
美術館でのマンガ展は「巨匠の原画を並べました」に留まる例もありますが、今回は「マンガを描く」行為を鋭く考察した展覧会。全体を通してマンガに対する愛情と作家へのリスペクトが強く溢れているのも印象的でした。
正直言うと、展覧会に行く前は読んだことが無い作品もたくさんありましたが、大人買いしたくなるマンガが増えてしまいました。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2016年7月22日 ]※前後期で展示替えがあります
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