ドイツの銅版画といえばアルブレフト・デューラー(1471-1528)が有名ですが、メッケネムの方が16歳も年上。15世紀後半から16世紀初頭にかけて多くの作品を残しており、現在でも500~600点が知られています。
ミュンヘン州立版画素描館や大英博物館などの協力を得て実現した本展。版画が中心ですが絵画、工芸品なども含め、100点あまりで構成されています。
会場
前述のデューラーのほか、マルティン・ショーンガウアー(1430頃または1450頃-1491)など他の作家の作品もコピー作品を作っていたメッケネム。様式や技法を学んでいきました。
他者の作品をコピーする事は、現在では「パクリ」として断罪されますが、当時は写真が無かった時代。流行の主題をコピーする事はごく一般的でした。人気がある作品のコピーを作る事は利益につながる事はもちろん、ヨーロッパ中に多様な図象を広めた事で、文化水準を向上させたともいえます。
会場ではオリジナルの作品と対比した展示も。左右が反転している作品が多く展示されています。
1章「メッケネムの版画制作の展開とコピー」
メッケネムの作品で数多く展示されているのが、キリスト教をテーマにしたもの。中には刷られてから100年も経った後に別の作家によって着色された作品もあり、社会に受け入れられていた事がわかります。
当時のキリスト教は社会に浸透する一方で、信仰が地位や財産に結びつき、さまざまな問題が顕在化しつつありました。《聖グレゴリウスのミサ》は「版画の前で祈ると2万年分の罪が許される」という贖罪機能をもつ1枚。要するに買わせるための誇大広告で、「2万年」とはかなりスケールが大きい話です。
2章「聖なるもの:キリスト教版画」
展覧会のキャッチコピーは「いつの世も、人間は滑稽だ。」メッケネムはキリスト教以外をテーマにした作品も手掛けており、皮肉が利いた作品は見ものです。
《恋人たちと死(散歩)》は、丘の上でデート中の男女ですが、木の影には砂時計を持った魔物=「死」の姿が。女性はその容貌から既婚者と思われる事から、「一時の快楽に身を委ねるのではなく、人生を正しく過ごせ」という意味です。
《ズボンをめぐる闘い》は、下に落ちているズボン(家庭での支配権を象徴します)を巡って、糸巻棒で夫に殴りかかる妻。気弱そうな夫の表情を見ると気の毒に思えます。
3章「俗なるもの:世俗主題版画」
初期の銅版画という事もあり、サイズは総じて小さ目。かなり近くで見る事ができますが、ユニークな人物の表情などをお楽しみいただくには、単眼鏡があればなおベターです。
会場の国立西洋美術館は、7月10日~20日にトルコで開かれるユネスコ世界遺産委員会において世界遺産になる事がほぼ確定。世界遺産になる国内の美術館は、もちろんこれが初めてです。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2016年7月8日 ]
■メッケネムとドイツ初期銅版画 に関するツイート