展覧会は
ポーラ美術館が収蔵する19~20世紀の絵画を中心に、ファッションの変遷を紹介するもの。ただ、絵画だけでなく充実した資料類が本展の大きな特徴です。文化学園服飾博物館から計10着のドレスが出品されており、中には絵画から飛び出てきたようなドレスも展示されています。
展覧会の冒頭は詩人・批評家のシャルル・ボードレールから。それまでの絵画は普遍的な事象が描かれていましたが、ボードレールは移ろいやすいもの、一時的なものの中にある「近代性」の表現を推奨。都市風俗は絵画の主題になり、中でもファッションは重要なテーマになりました。
絵画とドレスが並ぶ会場仕立屋の家に生まれたルノワール。彼の作品には魅力的なファッションの女性がしばしば登場し、
ポーラ美術館のアイコンといえるルノワールの《レースの帽子の少女》もそのひとりです。
よく見ると、少女が着ている服は《髪かざり》のモデルが来ている服と同じ。このドレスは同時期に描かれた他の作品にも登場するため、ルノワールがモデルに着せていたと考えられます。
展覧会のメインビジュアルは、マネが描いた《ベンチにて》。モデルは若手女優で高級娼婦でもあったジャンヌ・ドマルシーで、パステルを用いてやわらかな女性の肌を巧みに表現しています。
展示室1の奥には、19世紀の上流階級の女性の化粧部屋も再現されています。豪華な化粧セットはアール・ヌーヴォーのデザイン。100年前にも、髪にウェーブを付ける道具「アルコールランプ付折りたたみコテ」があった事がわかります。
美を求める想いは不変ですファッションの広まりに大きく貢献したのが、印刷技術の進歩。貴族など上流階級が生んだ最新のモードは、パリで出版されたファッション雑誌によって庶民まで拡散していきました。
ファッション誌などに挟み込まれていたのが、流行のドレスや髪型を描いた「ファッション・プレート」です。なかには非常に手間がかかる一方で微妙な色彩が表現できる「ポショワール技法」で作られたものもあり、美への関心の高まりがうかがえます。
当時の最新メディアだった版画を通じて女性のファッションが進歩していくのは、日本の浮世絵とも良く似ています。
メディアの進歩は社会を変えます上流階級の女性に欠かせないファッションアイテムが、扇。実用として用いるよりも、コミュニケーションツールとして重用されました。
当時は男女の出会いの機会も限られていた時代。扇の使い方で意識の疎通を図るという、野球のブロックサインのような手法が生まれていきました。
例えば、扇で頬を横になぞるのは「あなたを愛している」の意味。扇の取っ手を唇にあてたら「私にキスして」、扇を落とすのは「友達でいましょう」のサインです。
扇を用いた暗号は19世紀にスペイン語で手引書が出版され、その後ドイツ語、英語に翻訳されるほど広まりました。
ちなみに、扇で手をなぞると「あなたなんか大嫌い」です通常の美術展とはひと味違うユニークな企画。
ポーラ美術館はリピーター率が高く(約3割)、固定ファンにも満足していただくよう新しい切り口の展覧会を目指す中で企画されました。
偶然にも今シーズンはファッション関連の展覧会があちこちで開催中。本展と、世田谷美術館「ファッション史の愉しみ ―石山彰ブック・コレクションより―」(2月13日~4月10日)、三菱一号館美術館「PARIS オートクチュール ─ 世界に一つだけの服」(3月4日~5月22日)で、各館の半券提示による相互割引も実施中です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2016年4月2日 ]■ポーラ美術館 に関するツイート