北アルプスを望む南安曇郡北穂高村(現安曇野市)に生まれた高橋節郎(1914~2007)は、1933年、東京美術学校(現東京藝術大学)工芸科漆工部に進学しました。
高橋はここで松田権六、山崎覚太郎、磯矢陽らに漆の技術を学びます。松田権六は伝統工芸を、山崎覚太郎は現代工芸を、それぞれ牽引していくことになる芸術家でした。彼らの指導や生き様は、高橋の作家としてのスタイルに大きな影響を及ぼし、彼の中で新たな芸術を産み出す礎となりました。
戦後、漆表現の可能性を追求する高橋は、キュビスムやシュルレアリスムといった西洋の美術様式を取り入れながら、漆黒と黄金で描く独自のスタイルを確立していきます。多様な漆絵版画や乾漆立体もまた、高橋の止むことのない漆への探究心から生み出されています。
美術学校を離れてから、芸術家として目覚ましい活躍を示し続けた高橋節郎は、1976年、母校の東京藝術大学の教授に就任します。6年間という短い歳月でしたが、この間、同学に学んだ学生たちは、現在、日本のみならず世界で活躍する芸術家となっています。その中には全国の美術系大学で指導する立場となった芸術家もいます。彼らの教え子達もまた、一方では、漆工の伝統の後継者に、また一方では、現代アートの視点からも評価される新進気鋭の芸術家に成長しています。古来より我が国に脈々と受け継がれてきた漆工の精神は、数多くの芸術家へと引き継がれ、新たな漆の可能性が開花し続けているのです。
この度の企画展では、高橋節郎が東京藝術大学教授在任期間中に在学した工芸専攻の学生の中から、現在、教授・准教授として各地の美術大学にて教鞭をとっている作家9人を紹介します。さらに、その中で漆工を担当する5人の作家に9人の若い注目作家を推薦していただきました。現在も引き継がれている高橋節郎の想いを通し、未来の漆表現の行方を探ることとなれば幸いです。