泉屋博古館東京において木島櫻谷の展覧会は、3回目になります。回を重ねる度に注目度は増し、再評価されている画家です。写生を重んじた櫻谷は動物画で名を馳せました。前回は動物画を中心とした展覧会でしたが今回は、山水画にスポットをあて櫻谷の魅力に迫ります。
泉屋博古館東京 美術館外観
海山川を描いた写生帖
第1章は、櫻谷の写生帖がずらりと並びます。毎年数週間にわたり写生旅行にでかけ全国を回りました。日常では京都近郊に頻繁に足を運び、描いた写生帖が数十冊。いかに写生を重視していたかが伝わってきます。作品としても成立しそうな完成度の高さと緻密さに圧倒されます。
展示風景:第1章 写生帖よ! ―海山川を描きつくす
大型屏風が迫る
第2章は、手元サイズの写生帖から一転して、大型の屏風が一面に並び壮観です。迫りくる大迫力の山水画。櫻谷が感じていたであろう自然への畏敬の念も伝わってきます。
展示風景:第2章 光と風の水墨 ー写生から山水画へ
さらに歩みをすすめると、大パノラマが迫ってきました。雄大にそそり立つ山。右隻から流れる川は、上流からの支流を集め、近景と遠景の山の間を縫うように左隻に向かって延びます。その先に連なる山々と、それを覆う雲間。水は雲の中に消え入り、屏風の左右は拡張して無限の広がりを感じさせます。
《万壑烟霧》 明治43年(1910) 株式会社 千總 【展示期間:通期】
屏風に近づくと、手前と奥の遠近表現が細やかな濃淡によって描かれています。山際の複雑な重なりが屏風の奥行方向へ広げます。明治時代にもたらされた西洋画の遠近法と日本の水墨画表現を融合させ、深淵な世界を作り出しました。
この絵は耶馬渓、飛騨、甲州などの写生旅行から着想を得ています。山で見た雲の変化から「胸中の山水」として描き出されました。櫻谷は写生をしてすぐに作品には移らず、本質を自身の中で熟成させてから描いていました。
《大分・耶馬渓写生》写生帖より 明治40年(櫻谷文庫)
南陽院の障壁画
展覧会準備中に、南陽院(南禅寺塔頭)の本堂を飾る50面にも及ぶ櫻谷の襖絵が発見されました。今回、初めて寺院を出て展示され、今後は見る機会も限られると思われます。
《南陽院本堂障壁画》 西側 明治43年(1910) 京都・南陽院 【展示期間:前後期で入れ替えあり】
この襖絵も写生旅行で醸成された印象を、早い筆使いで一気呵成に描き上げました。空間、陰影表現に西洋的技法が見られます。
色彩の天地
櫻谷の代表作《寒月》。一面の雪、月明りに浮かぶ竹林のシルエット。モノクロームの冷たい世界に木々の青・緑・茶の色彩や岩絵の具がキラキラ輝きます。静寂の中、飢えたキツネが迷い込み、厳しい自然の中、生命力を感じさせられます。
《寒月》 大正元年(1912) 京都市美術館 【展示期間:6/3~6/18】
描かれているモチーフ、風景や色調が対照的な二点の代表作ですが、濃厚な色彩、強い発色とざらついた質感、新旧の顔料の特色が生かされています。両作品は同時期に制作されました。写生を基本とし、それをあたため熟成することで生まれる世界。充実期の櫻谷絵画の広がりを見せます。
《駅路之春》 大正2年(1913)福田美術館 【展示期間:通期】
この展覧会では、写生にはじまり、写生に終わった櫻谷の足跡を追体験できます。対象の精神にまで迫り、主観と客観の揺らぎの中で自分の形をつかみとりました。見えないものまでも描いた櫻谷。その時々で残した言葉やコレクションしたものからも櫻谷が見ていた世界を覗くことができます。
櫻谷遺愛 水石 櫻谷文庫
(主催者の許可を得て撮影しています)
[ 取材・撮影・文:コロコロ / 2023年6月2日 ]
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