ミラノで生まれたアルチンボルド。宮廷画家になったのは36歳からで、その後25年に渡りフェルディナント1世、マクシミリアン2世、ルドルフ2世という3人の皇帝に仕えました。
当時はレオナルド・ダ・ヴィンチの影響が残っていた時代。レオナルドによる精密な自然の描写、そして人相への関心は、アルチンボルドにも影響を与えました。
自然科学に関心が高く、ウイーン周辺に動物園や植物園を設立するほどだったマクシミリアン2世。アルチンボルドは君主に対する新年の贈り物として、ふたつの連作を捧げました。
会場前半そのふたつが『四季』と『四大元素』。連作は相互に関係しており、例えば《夏》は暑くて乾燥している《火》。同様に《春》と《大気》、《秋》と《大地》、《冬》と《水》がペアで、会場ではペア同士が隣り合わせで展示されています。
《春》は草や花、《大地》は動物など、それぞれに相応しいモチーフを組み合わせて横顔として表現。元になったモチーフの描写は博物学的な知識に基づいています。
また《冬》のマントに皇帝の頭文字である「M」があしらわれているなど、各所にハプスブルク家とその君主を示すモチーフが埋め込まれている事も特徴的。綿密な計画に則って描かれた作品なのです。
なお、連作はともに大きな評判を呼んだため、別ヴァージョンがいくつか制作されています。今回展示されているものも、複数のヴァージョンから集められたものです。
ふたつの連作、『四季』と『四大元素』日本なら歌川国芳らも描いた「寄せ絵」(ただしアルチンボルドより300年も後です)。本展でも、男根を組み合わせた横顔や、版画での作例、そしてアルチンボルドの追随者による「寄せ絵」も展示されています。
会場後半にもアルチンボルドの作品が紹介されています。職業絵として、酒樽などからなる《ソムリエ(ウェイター)》、本を組み合わせた《司書》。そして上下を逆にして見る事ができる《庭師/野菜》《コック/肉》などを展示。驚くべき創造力は、シュルレアリストをはじめ後年の画家にも大きな影響を与えています。
会場後半作品の印象のわりには、名前が知られているとは言い難いアルチンボルド。現存する油彩画が少なく、まとまった数の作品を揃える事が難しい作家なので、これだけの規模で大々的に紹介されるのはかなり貴重な機会といえます。
会期は長めですが、後半は混雑必至です。お早目にどうぞ。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2017年6月19日 ]■アルチンボルド展 に関するツイート