少女時代からマンガ家になる事を目指していた陸奥さん。1971年に17歳で『りぼん』に投稿して「もう一息」に選ばれ、翌年『りぼん』増刊号でデビューしました。
当時の少女マンガは、現実と離れた舞台設定や精神性が強いストーリーなど、ややもすれば重い作風になりがち。陸奥さんの作品は「大好きな彼のために一生懸命な、ごく普通の女の子」という等身大の設定で、たちまち読者の共感を得ていきます。
1974年には「たそがれ時に見つけたの」で『りぼん』本誌に初登場。陸奥さんの作風は「おとめチック」と呼ばれ、同様の路線で人気を博した田渕由美子さん、太刀掛秀子さんとともに『りぼん』を牽引していきます。
「たそがれ時に見つけたの」の原稿も、もちろん展示されています
陸奥さんの作品に登場する人物は、女の子も男の子もとてもファッショナブル。現実ばなれした服装ではなく、当時流行していたアイビー・ルックを積極的に取り入れていきました。
自身が手芸が得意だった事もあって、作品に登場するインテリアや小物類にもこだわり、細かな部分まで作り込まれた「手が届きそうな世界観」は、意外にも男性ファンも多かった事も知られています。
長い間『りぼん』『りぼんオリジナル』で活躍した陸奥さん。1990年からは『YOUNG YOU』、1998年からは『YOU』に舞台を移し、仕事や結婚など大人のストーリーも描いています。
会場には近年の作品まで紹介されています
実は陸奥さんが『りぽん』本誌に登場したのは、マンガよりもふろくが先。当時は人気マンガ家のイラストが、マンガとは別にふろくとして作られていたのです。
当時の少女雑誌のふろくはグループサウンズやアイドル関連が多く、どの雑誌も同じような体裁でしたが、だんだんとふろくにマンガ家のイラストを積極的に用いるように方針を変更。特に『りぼん』のふろくのセンスのよさや、他では手に入らないプレミア感も支持され、ふろくの黄金時代ともいえる時代となりました。
まさにその時代を牽引していたのが、陸奥さんなど「おとめチック」派のマンガ家。レターセットやノートをはじめバインダーやルーズリーフ、バッグなど、バラエティー豊かなふろくが次々に生まれました。
会場には陸奥さんが手がけたふろくはもちろん、少年誌もふくめて、雑誌ふろくの変遷も紹介されています。
さまざまな制約の中、バラエティ豊かなふろくが生み出されていきました
今回の展覧会はグッズもかなり充実しています。ポストカードやクリアファイルなどの定番はもちろん定期入れやキャンバスバック、そして2016年のカレンダーまで、幅広く揃えています。
取材に伺ったのは平日の午前中ですが、女性を中心にいつも以上の賑わいぶり。多くの人が美術館出口のショップで足を止めて、お目当てのグッズを探していたのも印象的でした。
目移りしそうなグッズの数々
陸奥A子さんが『りぼん』で活躍していた頃から30年以上経っている事もあって、実はファンの中には、陸奥さんのマンガに登場するキャラクターやストーリーが混ざってしまっている事もあるそうです。
ただ「作者が陸奥A子さんだった」という事だけは、皆が必ず覚えている、との事。「陸奥A子さんの作品」という強いブランド力を物語っています。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2015年11月4日 ]
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