サブタイトルに「フィレンツェの富と美」とあるように、「美」を支えた「富」にも焦点をあてた展覧会。冒頭に紹介されているのは富の象徴、フィオリーノ金貨です。
1252年から鋳造されたフィオリーノ金貨。フィレンツェの百合の紋章を刻印したこの金貨は中世から国際通貨となり、フィレンツェをヨーロッパ経済の中心に押し上げました。
世界的信用を獲得したフィオリーノ金貨は、模造品も広まりましたフィレンツェで銀行家として台頭したのがメディチ家です。ヨーロッパ各地に銀行の支店を開いて交易は活性化。豊富な資金力を背景に、才能あふれる芸術家を支援しました。
メディチ家から絶大な信頼を得ていたのが、サンドロ・ボッティチェリ(1445-1510)。銀行家から次々に注文を受け、彼らを満足させる華麗な作品を生み出していきます。
第2章「旅と交易 拡大する世界」、第3章「富めるフィレンツェ」展覧会で話題を呼んでいるのが、巨大なフレスコ画《受胎告知》。243cm×555cmという巨大壁画は、ボッティチェリが1481年に描いたものです。
画面左側は、中庭に舞い降りようとする天使ガブリエル。右側には、神の意思を受け入れようと恭順の身振りを示すマリア。豪華な室内の意匠はフィレンツェの邸宅風です。柱の意匠や床のパターンで、奥への遠近感を見事に表現しています。
サンドロ・ボッティチェリ《受胎告知》この展示室には、他にも見応えがある作品が並びます。
トンド(円形画)の《聖母子と洗礼者聖ヨハネ》は、イタリア政府の「門外不出リスト」に登録されている傑作。祈りをささげるマリアとふっくらとしたイエスは肌の表現が印象的で、円型の画面を活かした人物の配置も巧みです(こちらは5月6日までの期間限定出品です)。
黒い背景の《ヴィ―ナス》は、ボッティチェリの代表作《ヴィーナスの誕生》から女神のみを取り出した作品。女性の身体を強調したこれらの作品は、フィレンツェ繁栄の頂点ともいえます。
トンド(円形画)の《聖母子と洗礼者聖ヨハネ》は、期間限定出品15世紀末になると、メディチ家に代わって修道士ジロラモ・サヴォナローラが台頭。教会の堕落を批判し、市民に贅沢品を燃やすよう“虚栄の焼却”への参加を呼びかけ、多くの芸術家がその作品を燃やしました。
ボッティチェリもサヴォナローラの考えに魅了され、作品は変容。人物表現は硬くなり、官能性も消えてしまいます。人気も急落したボッティチェリ、最期は貧窮し、負債を抱えたまま死去しました。
第5章「銀行家と芸術家」、第6章「メディチ家の凋落とボッティチェリの変容」これほどの規模でボッティチェリの作品を見る事ができるのは、まさに奇跡的。東京だけでの開催が、もったいなく思えます。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2015年3月20日 ]■ボッティチェリとルネサンス に関するツイート