朝香宮家の本邸として1933(昭和8)年に建設された
東京都庭園美術館。当時、世界中で流行していたアール・デコに、いち早く目を付けたのは朝香宮ご夫妻です。滞在中のパリでこの様式にすっかり魅せられ、新築した邸宅にこのスタイルを取り入れました。
戦後は外務大臣公邸や迎賓館などに利用された後に、東京都が土地と建物を取得。1983年から、
東京都庭園美術館として一般に公開されるようになりました。
2011年11月から約3年間に及んだ、今回の大改修工事。本館は保存を目的とした改修のほか、当時の資料を参考に細部が復原され、より創建当時の姿に近づきました。
瀟洒なアール・デコ様式の本館。各所に修復の手が入りました建物に入ってすぐ目に入る大きな磁器製の塔は「香水塔」。建物の設計者の一人であるフランス人デザイナーのアンリ・ラパンが手掛けました。そもそもは屋内用の噴水器で、朝香宮邸時代に来客を迎える際、頭頂部に香水を垂らして周囲に香りを広げた事から「香水塔」と呼ばれるようになったものです。
今回は、以前の修復で用いられた接着剤を除去。新たに樹脂で接着し直すとともに、接合部分はパテ埋め。表面も磨き直す事で、本来の色味を取り戻しました。
「次室(つぎのま)」にある、アンリ・ラパンが手掛けた「香水塔」建物の主であった朝香宮鳩彦王の居室である、2階の「殿下居間」も大きく改修されています。
この部屋は美術館開館時から無地の壁紙になっていましたが、一部残されていたオリジナル布地の繊維を分析。書斎の机のガラス板の下に敷かれていた共布も参考にして、壁紙とカーテンの模様と色が復原されました。
両脇に置かれているイチョウ型と台形のキャビネットも修復。具材を全て解体して歪みを調整。欠損していた棚や鍵も作り直しています。
2階の「殿下居間」そして今回の工事では、新館を地上2階・地下1階の新しい建物として改築。本館の美術館機能を補完する新しいスペースが誕生しました。
アール・デコの本館から、美しいガラスのアプローチを抜けた先に設けられた、現代的な新館。中にはホワイト・キューブの展示室が設けられており、現代美術の展覧会や映像、音楽、パフォーミング・アーツなどにも対応していく事となります。
新館にはショップとカフェもオープン。オリジナルグッズやオリジナルスイーツも登場する予定です。
美しいガラスのアプローチも見ものですこれまでも年間18万人の来館者に愛されていた
東京都庭園美術館。「待ちに待った」という方も多いのではないでしょうか。現在、開館記念の展覧会として、本館で「アーキテクツ/1933/Shirokane アール・デコ建築をみる」が、新館ギャラリー1および本館で「内藤礼 信の感情」が開催中です(ともに12月25日まで)。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2014年11月21日 ]■東京都庭園美術館 に関するツイート