清朝時代の中国(1644-1911)で流行していた、嗅ぎたばこ。粉末状にしたたばこを入れる容器が鼻煙壺です。
町田市立博物館は、1980年代からガラス製鼻煙壺を収集。本展では所蔵する約350点の中から、ガラス製の鼻煙壺約220点を中心に紹介していきます。
小さな鼻煙壺が並ぶ会場。入口近くには象牙製や、ヨーロッパの鼻煙壺もまず最初に並ぶのは、山水や人物、動物、花鳥などが描かれた鼻煙壺。小さなガラス瓶に細密な描写がされている事だけでも驚きですが、なんと、この絵は容器の内側に描かれたもの。L字に曲げた筆を容器の口から入れて描くという、信じられない技法「内画(うちえ)」で作られました。
会場には内画で使われる道具の他、制作工程も紹介。中には文字が描かれているものもありますが、当然ながら左右逆の鏡文字で書かなければできません。まさに驚愕としか表現しようが無い超絶技巧です。
「内画(うちえ)ってナンダ!?」地になるガラスの上に、別の色のガラスを重ねる技法は「被せ(きせ)ガラス」。重ねたガラスを地のガラス層まで削る事によって、模様が浮かび上がったようなデザインを作る事が可能です。
被せガラスの鼻煙壺は、蝋細工のような趣き。小さな瓶の両面に、さまざまな図柄が描かれています。
「被せ(きせ)ガラスってナンダ!?」中国の工芸品にしばしば見られるように、鼻煙壺のデザインにも「子孫繁栄」「長寿」「富貴」「立身出世」など、さまざまな願いが込められています。
西洋では縁起が悪い蝙蝠(コウモリ)ですが、中国ではその音から福の意味。蓮の花・花托・根は良縁を意味し、蓮と魚の組み合わせは毎年豊かである事の象徴です。
猫と蝶が用いられるのは、長寿を意味する言葉と音が似ている事から。菊も長寿を意味する吉祥文です。
吉祥の図柄が施された鼻煙壺の数々ヨーロッパから中国に伝わった嗅ぎたばこ。実はヨーロッパでの嗅ぎたばこ入れは箱型が主流でしたが、湿気の多い中国では使えなかったため、薬瓶として使われていた陶磁器製の小瓶に栓を利用。その栓に小さじを付けたのが、鼻煙壺のきっかけになりました。
もし中国が乾燥していたら生まれていなかったかもしれない、極小の芸術品。会場は写真撮影もできますので、カメラ持参でお楽しみください(三脚、フラッシュ撮影は禁止です)。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2014年11月13日 ]