東山御物は、室町三代将軍の義満と六代の義教が収集した美術品が中核(「東山」は八代将軍足利義政が営んだ東山山荘ですが、収集されたのはより前の時代なので要注意です)。多くは明との交易でもたらされた唐物で、鑑賞の場は将軍邸内に造営された会所(かいしょ)。唐絵や唐物道具の組み合わせを考えたのは、将軍とその近くにいた同朋衆でした。
会期通して106点を紹介する本展。まずは将軍家に伝わる御道具からご案内しましょう。
展示室1の中ほどにある茶碗は、重要文化財《玳被盞 鸞天目》(たいひさん らんてんもく)。見込(茶碗の内側)には二羽の鳳凰と小さな虫、底には花文が見られます。他の唐物天目もそうですが、残念ながら室町時代の由来は不明。後に小堀遠州が所持していたと伝わります。
重要文化財《玳被盞 鸞天目》奥の展示室2で紹介されているのは、国宝《油滴天目》。八代将軍義政に仕えた同朋集の相阿弥がまとめた「君台観左右帳記」(座敷飾りの指南書)によると「第一の重寳」が曜変(天目)、「第二の重寳」が油滴とされています。
水に油が散ったような景色(器の表面に現れた色や形の変化)から「油滴」と呼ばれますが。この茶碗は粒が大きく、銀色の斑紋が特徴的です。こちらも室町時代の由来は不明ですが、豊臣秀次が所持したと伝えられています。
国宝《油滴天目》大阪市立東洋陶磁美術館蔵続いて絵画。絵画で足利将軍家が所有していた証拠になるのが、鑑蔵印。義満なら「天山」「道有」、義教は「雑華室印」、義満周辺の善阿弥が管理した幕府の善阿倉にあったものなら「善阿」です。
東山御物の中には、長い伝承の歴史の中で、もとは対だったものが離れ離れになってしまったものもあります。東京国立博物館が所蔵する重要文化財《梅花双雀図》と、五島美術館が所蔵する重要文化財《梅花小禽図》も、元は対幅として伝来したもの。共に「雑華室印」が捺されています(共に観られるのは10/4~11/3)。
重要文化財《梅花双雀図》と重要文化財《梅花小禽図》本展は会期が細かく7期に分かれており、中には短期間しか展示されないものものあります(詳しい展示期間は
公式サイトの出品リストをご確認ください)。
チラシでメインビジュアルになっている国宝《紅白芙蓉図》も、展示は10/13(月・祝)までの約1週間。左右それぞれに描かれた紅白の芙蓉は、蕾からしおれるまでを繊細に描画しています。
国宝《宮女図》は10/19(日)までの2週間。右手の親指と左手の小指を見つめる男装の宮女は、とても愛らしい横顔。東山御物には珍しい美人画の作品です。南宋末元初の文人画家、銭選筆と伝わります。
順に、国宝《紅白芙蓉図》 国宝《宮女図》「伝牧谿筆」など、伝承筆者の作品も目に留まる本展。素人目には価値が低く思えてしまいますが、日本における牧谿観の形成という「鑑賞史」的に考えると実は重要な要素です。このあたりは、図録の樋口一貴学芸員の解説が分かりやすいので、ぜひお読みいただければと思います。
毎週金曜日は19時まで観覧できるナイトミュージアムも実施中(入館は18:30まで)。さらに金曜日は17:00以降に入館すると一般1,000円、大学・高校生は500円とオトクです。会期中は半券提示で2回目以降は団体料金になるリピーター割引もご利用ください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2014年10月3日 ]