小林古径(1883~1957)と奥村土牛(1889~1990)。6歳違いの二人は梶田半古(かじたはんこ)に学んだ同門ですが、半古が没した後、土牛は古径に直接学んだこともあり、兄弟弟子というよりは師弟のような間柄でした。
山種美術館は両人と縁が深く、古径の作品を46点所蔵。土牛に至っては135点も所蔵しており、これは日本最多です。
山種美術館名誉館長の山崎富治氏曰く、小林古径は「口数が少ない怖い人」だったとの事。土牛については山種美術館創設者の故・山崎種二が土牛を訪ねたところ、貧しかった土牛の家には電話が無かったため、種二の手配ですぐに電話が設置されたというエピソードも伝えられています。
会場入口から
展覧会は「小林古径の芸術」「古径と土牛」の二章構成です。
まずは古径の作品から。前半は古径の若き時代の歴史人物画に始まり、現存する唯一の油彩画が必見です。
さらに渡欧を通じて東アジアの線描の美を再認識した古径は、その成果ともいえる紀州の道成寺伝説を題材にした《清姫》を発表します。これは、古径ならではの格調の高さで評価が高い作品です。
元は絵巻にすることを想定して描かれたものですが、詞書がなかったり、最初の1枚は着色されていなかったりと謎も多い作品。全8面が一挙に公開されるのは、3年ぶりとなります。
小林古径《清姫》昭和5年 山種美術館
続いて、土牛の作品も2点ご紹介します。醍醐寺のしだれ桜に想を得た《醍醐》は、山種美術館ではお馴染みの作品。実は土牛が醍醐寺に立ち寄ったのは、小林古径の薬師寺で行われた七回忌法要からの帰り道でした。
もう1点、美しい緑色が印象的な《鳴門》。船上から見た鳴門の渦潮に感銘を受けた土牛は、海に落ちないよう妻に帯を掴んでもらいながら、何十枚も写生を繰り返したそうです。
奥村土牛《醍醐》昭和47年/奥村土牛《鳴門》昭和34年 いずれも山種美術館
日本美術院の留学生として渡欧しながらも、日本画の可能性を信じて歩んだ古径。古径を慕い続け、平成の世まで研鑽を続けた土牛。関係が深い二人ですが、意外にも二人を並べて紹介する企画はほぼ初めてです。
鳥、蓮、猫、犬など、同じ画題で描かれた二人の作品を比較できるのも、本展の魅力といえるでしょう。
同じ画題で描かれた、古径と土牛の作品
今年の山種美術館は年末年始に展示替えとなるので、早いもので本展が2013年最後の展覧会。ミュージアムショップでは、山種コレクションの名品が並ぶ人気のカレンダーの2014年版が発売されました(本展にも展示中の小林古径《鶴》がこのカレンダーの表紙を飾っています)。
年明けは2014年1月3日(金)から「Kawaii(かわいい)日本美術 ―若冲・栖鳳・松園から熊谷守一まで―」で幕開けとなります。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2013年10月21日 ]
※会期中に一部展示替えがあります(前期10/22~11/24、後期11/26~12/23)