江戸時代の動物絵画は現代の感性にもフィットするためか、各地の展覧会でひっぱりだこ。8年前の「動物絵画の100年」展も、多くの人で賑わったと聞きます。
今回は対象を拡大して、江戸の動物絵画を幅広く紹介。なぜ人は動物の絵画を描き、そして求めるのか。さまざまな側面から考えていきます。
会場は序章の「動物という存在」から。まずは動物に対する素直な思いをみずみずしく表現した作品をご覧ください。
序章「動物という存在」第1章は「想像を具現する」。記録としての動物絵画ではなく、思考の産物としての動物表現を紹介します。
分かりやすいのは、虎。江戸時代に実物の虎を見た人は殆どいませんが、虎を描いた作品は大量に残っています。中国や朝鮮からもたらされた絵画をベースにしながらも、模写に留まらず独自のアレンジを加えていきました。
鶴=縁起が良い、鹿=神の使い、兎=子孫繁栄のように、動物の絵には意味があるものも少なくありませんが、もちろんこれらは想像の産物。人々の思いを動物の姿に託して表現しているのです。
第1章「想像を具現する」第2章は「動物の姿や動きと、『絵』の面白さ」です。
中国画や西洋画の影響を受け「迫真的に描く技術」が流行した江戸時代。リアルを追及した結果、実体を乗り越えたような、奇妙な存在感の動物絵画も生まれました。
この章には、動物の造形上の面白味に着目した作品も並びます。羽をコンパスで描いたような鷲、大きく体をくねらせる虎など、ユニークな感性が光ります。
第2章「動物の姿や動きと、『絵』の面白さ」第3章は「心と動物」。鳥の声で心が安らいだり、牛の声をのどかに感じたりと、動物は人間の心を直接揺さぶる不思議な力を持っています。それらの動物絵画に詩情を感じるのは、江戸時代の人々も現代の私たちも変わりません。
また日本人と動物の関係で、仏教からの影響は見逃せません。釈迦が臨終した「涅槃図」には、弟子とともに、嘆き悲しむ多くの生き物を描くのが定番。捕えた鳥獣や魚を解き放つ「放生」は功徳に繋がるとされ、その様子を描いた絵画もあります。
第3章「心と動物」作者の数が多い事もあって、会場には作者の解説が掲示されていません(入口で紙の資料が用意されています)が、先入観抜きで鑑賞できるいいチャンス。 まず絵を楽しんだ後に、じっくり資料でご確認いただく事をおすすめします。
会場で販売されている公式図録(2,400円)もスグレモノです。全出展作品の解説とともに、小口をあえてザラザラにしてページをめくりやすくしたり、中ほどのページは手で押さえなくても開いたままになる特殊な製本をしたりと、細やかな配慮がなされています。かなり人気で、残数に余裕がなくなりつつあるとの事。お求めの方は、お早目に。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2015年4月9日 ]