古美術入門編として同館が定期的に企画している「美術の遊びとこころ」。今までは「写(うつし)」や「旅」をテーマにした展覧会が行われましたが、今回のテーマは「デザイン」です。
日本美術の図録や美術書のなかの解説文に出てくる、ちょっと難しい漢字の単語を50音順に解説する、という趣向です。
【鱗文(うろこもん)】は、「胴箔地黒鱗模様鬘帯・腰帯」と「色絵鱗文茶碗」。用語をアイウエオ順に並べて意味を列記するだけなら何でもなさそうですが、展覧会なので美術品を展示しなければなりません。
“あ”は、漢字や仮名文字を風景の中に隠した絵画の「葦手絵(あしでえ)」の作品として、蒔絵の箱。“う”は「鱗文(うろこもん)」で、帯や茶碗…。
「順番どおりに見せる」という厳しいルールの中で、見事に「ゐ」「ゑ」「を」「ん」以外の50音を網羅しました。
【御庭焼(おにわやき)】、【織部焼(おりべやき)】、【肩衝(かたつき)】、【片身替り(かたみがわり)】。茶器が並びます用語は全部で73項目。「絵巻」「掛軸」などの一般的な単語はごく一部で、「郭子儀」「雲母摺」「紗綾形」「瓔珞」など、ほとんど読めないものも。実物を眺めながら用語の解説を読むと理解が進むのは、遠い昔に苦労した暗記物の勉強と同じかもしれません。
ちなみにご紹介した用語の読みは「かくしぎ」「きらずり」「さやがた」「ようらく」です。
【鍾馗(しょうき)】は円山応挙筆。担当学芸員イチオシのイケメンもちろん、展示品も折り紙つき。超絶技巧の象牙細工、竹内実雅《牙彫田舎家人物置物》や、同館の調査で狩野探幽筆と認められた東日本初公開の《雲龍図》、円山応挙のイケメン《鍾馗図》など、逸品がずらりと並びます。
「日本の古美術」という大きな枠はあるものの、この企画なので展示品はバラエティーに富んでいます。各種の名品を眺めることで絵画、書跡、陶磁器、漆工品、金工品、染織品など、自分の好みのジャンルを改めて見つけられるかもしれません。
【二十四考(にじゅうしこう)】は、親孝行に優れた24人の人物を取り上げた中国の物語。極小の盃セットに24人が描かれています。三井記念美術館は各展示室の形状が大きく異なることもあり、展示の順番に厳しい制約がかかる企画はかなり苦労したと思われます。担当学芸員の小林祐子さま、お疲れ様でした。(取材:2012年6月29日)
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辻 惟雄 (編集), 泉 武夫 (編集) 新書館 ¥ 2,100 |