幅広く良質の作品を所有するボストン美術館。ミレーのコレクションは、米国人画家のウィリアム・モリス・ハントがきっかけです。
渡仏時代にミレーと親交を結んだハントは、帰国後にボストンの富裕層にミレー作品を薦め、ボストン美術館の初代理事長らが作品を購入。後にボストン美術館に寄贈されて、今日のコレクションとなりました。
本展ではミレーの初期から晩年までの油彩25点を展示。またミレーと並ぶ写実主義(レアリスム)の創始者クールベや、同じバルビゾン派のコロー、ディアズ、ルソーら、また後の時代のモネやレルミットも紹介し、計64点で周辺への影響も含めて展観します。
会場入口からミレーの代名詞といえる《種をまく人》。神話や宗教を題材にした絵画が主流だった19世紀半ばに、働く農民の姿を力強く描いた本作は、社会に強いインパクトを与えました。
明治時代からミレーの人気が高かった日本でも、《種をまく人》は1933(昭和8)年から岩波書店のマークにも採用されるなど、早くからミレーの代表作として受容されています。
ボストン美術館の《種をまく人》が来日するのは、1970年、84年、94年、2002年に続いて5回目。ただし前回と前々回は東京には来ていないので、東京に登場するのは1984年以来、ちょうど30年ぶりとなります。
ジャン=フランソワ・ミレー《種をまく人》《種をまく人》と同じ展示室で紹介されているのが《羊飼いの娘》。空を背景に逆光で描かれた少女の姿は、妻の温泉療養で訪れたヴィシーで出会った娘を取り入れています。
実はこの作品は、ミレーの別作品の上に描かれたもの。Ⅹ線による分析で、この絵の下には1848年のサロンで展示された《バビロンの捕囚》が描かれている事が分かっています。
典型的な歴史画である《バビロン捕囚》を捨て、その上に農民の姿を描いたことは、ミレーの方向性を検証する上でも重要な事象として捉えられています。
ジャン=フランソワ・ミレー《羊飼いの娘》ミレーは1840年代終わりから60年代初めにかけて、家事をする女性を描いた作品を数多く残しています。
一見して分かるのは、フェルメールなど17世紀オランダ風俗画からの影響。質素な生活を描いた作品は、故郷を離れて都会で暮らす人々の郷愁を誘い、支持を集めました(ミレー自身も農家の長男に生まれましたが、故郷を出ています)。
第4章「家庭の情景」ミレーの生誕200年を記念した展覧会という事もあって本稿ではミレーの作品をご紹介しましたが、ミレー以外の作品も充実しています。うっそうとしたフォンテーヌブローの森を描くド・ラ・ペーニャ、印象派の影響も受けてミレーより明るい画面のジュリアン・デュプレ、そのデュプレに影響を受けたコンスタン・トロワイヨンの力強い動物などなど。ミレーとともにもお楽しみください。
三菱一号館美術館(東京・丸の内)にて、2015年1月12日まで開催中です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2014年10月16日 ]