榮久庵さんが東京藝術大学に在学中の1952年。工芸科助教授の小池岩太郎のもとに集まったメンバーが、インダストリアルデザインについて自主的に学び始めたのがきっかけで結成されたGK(Group of Koike)です。
昨年、創立60周年を迎えたGKと榮久庵憲司さんの世界を紹介する本展は、キッコーマンの〈しょうゆ卓上びん〉や〈秋田新幹線こまち〉など、いまで手がけた製品の実物や模型が並ぶ「第1章:茶碗から都市まで」からスタートします。
会場入り口から「第1章:茶碗から都市まで」展覧会は、凝った会場演出も見どころのひとつ。暗闇の中の雲を抜けるように進むと、新たなコンセプトや技術の開発を紹介する「第2章:創造工房」へ。一転して真っ白な空間に転換する構成は鮮やかです。
そして、今歩いてきた通路にも、ぜひご注目ください。センサーが影を感知することで、進んでいった自分の足跡が幻想的に光ります。
1章から2章への導入。足跡が光る通路〈あしあと〉も見逃さないでください第2章に並ぶのは、自由な発想で作られた自主研究やコンセプトモデルなど。立食パーティーで視線を合わせることが可能になる昇降式の車いす、ライトが脱着できる機能を備えた災害支援用の二輪車など、ユニークな提案が光ります。
「第2章:創造工房」地球を1000万分の1に縮小して両手で抱えられるスケールにした〈触れる地球〉は、自分の手で回したりする事が可能。発表は2001年、世界初のインタラクティブ・デジタル地球儀です。
〈触れる地球〉後半は仏教的な作品が並びます(榮久庵さんは仏門の出身。僧侶の家に生まれました)。
「第3章:道を求めて」では2006年に発表したインスタレーション〈道具寺道具村構想〉、そして「第4章:美の彼岸へ」では2011年発表のインスタレーション〈池中蓮花〉を再現しました。
力を持ちすぎてしまった道具に対する榮久庵さんの想い、そして人と道具の共生から生まれる理想郷が表現されています。
インスタレーション〈池中蓮花〉本展のテーマは‘道具世界’です。‘道具世界’とは、衣服やペンから家、都市まで人々の身の回りにあるものの全て。人間は道具世界に覆われ、その影響から逃れられないことを、鳳の大きさに燕や小鳥が騒ぐさまに例えて「鳳が翔く(おおとりがゆく)」という展覧会タイトルになりました。
会場の最後ではインタビュー映像も放映中。榮久庵さんはこの9月で84歳を迎えますが、とてもしっかりした口調と、穏やかな表情が印象的でした。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2013年7月25日 ] | | 現代デザイン事典
栄久庵祥二 (監訳), マイケル・アルホフ (編集), ティム・マーシャル (編集), GKデザイン機構 (翻訳) 鹿島出版会 ¥ 9,240 |